153日目。先週末、長野は松本までライブを観に行ってきました。シンガーソングライター・タテタカコ氏のライブツアー初日で、なんとそのタイバンのメンツが、野狐禅、eastern youth、ビーグルスと、ボク的にはちょっとした夏フェスにも匹敵する豪華メンバー。これを見逃す手はないぞと、午後2時ちょうどのあずさ19号で、わたしはわたしはライブへと旅立ったのでございます。ハコは松本駅近くのライブハウス『ALECX』。午後6時開場の1時間以上前から会場近くに張り付き、最前列のかぶりつきをゲット。ライブ中オシッコに行きたくなるとマズいので大好きなビールも控え、じっと開演を待つ。7時近く、ステージ上の照明がまぶたを閉じるようにスーッと落ち、それが長い長い夜の開幕でした。
オープニングを飾ったのは、松本を根城とするスリーピースバンドのビーグルズ。一度、なにかのタイバンでお見かけしたことはありましたが、改めて聴くととてもいいのです。115日目に紹介したtoeを彷彿とさせるポストロックなサウンドに、かなり内省的なリリックで、熱さと冷たさがうまく調和している感じのバンドでした。
2番手で登場したのが、我らが野狐禅。2年ほど前に所属事務所を脱退した彼らは、発売元の決まらないまま、最近レコーディングを再開。今回のライブでは2曲も新曲を聴かせてくれて、メジャーへの返り咲きが期待されます。いや、そんな期待してないけど。コアなファンとしては、今のままで十分なのです。今のままがいいのです。
3番手に現れたのは、eastern youth。ボクは彼らの音楽が好きで、CDもたくさん持っているのですが、ライブで拝見するのは実に今回が初めて。最前列に張り付いていたおかげでボーカル・吉野寿氏の、ウワサの「唾洗礼」をイヤと言うほどかけられた、もとい浴びせさせていただきました。あんなハゲ(←失礼)で、ちょっと腹も出て(←失礼)て、歌いながらヨダレを垂れ流す(←本当)、酒癖の悪そう(←多分本当)なオヤジが、なんであんなにステージ上でカッコ良く見えるんでしょう。ボクたちのひとりひとりが持っている、この熱くなりきれないままほっぽってある気持ちを、彼らはほんの数曲で、見事に発火させてくれるのです。さすがのライブでした。
そして、大トリが今回のライブの主役・タテタカコ氏。彼女のレビューは33日目でも89日目でも書いておるので、プロフィールなどの紹介は省きますが、先月6枚目のフルアルバム『敗者復活の歌』をリリースし、今回のライブはそのアルバムを引っさげの、全国36カ所を巡るツアーの初日でした。
彼女の出番は、機材トラブルによりスタートが大幅に遅れ、ようやくステージに現れたタテタカコ氏はいつもよりも固い表情に見えました。間奏の途中で、ピアノを弾きながらなにかつぶやいていて、至近距離で見ていたので唇が読めたのですが、「もう待つのはいやだ」と繰り返していました。きっとバックステージで、ずっと泣きそうな思いで待ってたんでしょうな。かわいい。ギュッとしたくなりました(←バカ)。
機材も回復せず、本人的には納得のいかない演奏だったようですが、それでも十分に彼女の歌は素晴らしかったし、あの会場にいた観客全員が「来てよかった!」と思ったでしょう。そのくらい、ジンジンと伝わるライブでした。
そしてアンコール。タテタカコ氏と一緒にステージに現れたのは、前述の吉野寿氏。ビールを片手にかなりいい感じに酔っ払っているご様子の吉野氏は、覚束ない足取りでマイクの前に立ち、タテタカコ氏のピアノに乗せて、目をつむりながら、歌うと言うよりは吐息を吐くように、こんな歌をうたい始めました。
雨は五月に降る時を待つ
私はそれをここで待つよ
嘘も涙も風吹くままに
木々の梢の囁くままに
雨は五月に降る時を待つ
雨は五月に降る時を待つ
私はそれをここで待つよ
それが全てを持ち去るならば
私のことは構わないで
雨は五月に降る時を待つ
この曲は、吉野寿氏とタテタカコ氏の共作で、CD化はされておりませんが、吉野氏のホームページにアップされている歌です。まるでトム・ウェイツと6日目のヴァシティ・バニアンがデュエットしているかのような、静謐さと諦念と切なさが凝縮されている歌で、ボクは図らずも落涙しました。この歌が聴けただけでも、長野くんだりまで訪れて良かったと思える、見事な締めくくりでした。
約4時間に渡る長い長いライブの終了後、一緒に来ていた友人や松本の知人と音楽談義に花を咲かせ、夜明け近くまで呑み明かしました。その間ずうっと外では、雨が五月に降っていました。