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【無人島301日目】思い出野郎Aチーム 『楽しく暮らそう』

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「上機嫌は人が着ることができる最上の衣裳である」と言ったのは、19世紀のイギリスの小説家、ウィリアム・メイクピース・サッカレーさんだそうですが、本当にその通りだとボクは思います。「なんだか不機嫌そうだな……」と思う相手に、わざわざ近づきたいとは思わないし、「不機嫌さ」を武器にして、人を貶めたり操ったりしようとするような相手には、もっとお近づきにはなりたくないものです。逆に、いつ会ってもニコニコしていて、その「上機嫌」につられて、こちらまで笑顔になってしまうような方に出会うと、「こういう人になりたい!」と心から思います。

しかしサッカレーさんも言う通り、その「上機嫌」は「衣裳」であり、努力して意識的に身に付けるものです。嫌なことがあった日、気分が優れない日、星占いが最悪な日、そんなことを微塵も感じさせない「ご機嫌さ」で、周りにピカピカの笑顔を振りまくには、それなりの鍛錬と胆力が必要なのでしょう。「人徳がある」「人格者」などという言葉は、きっと「上機嫌」という名の、思いのほか重く着づらいコートを、なんの苦もなく(もしくはまるで苦にもならないように)羽織れる人を指すのだと、ボクは思うのです。

話は変わらないようで変わりますが、音楽にも「ご機嫌」と呼ばれるジャンルがあります。例えば、スウィング・ジャズ。ベニー・グッドマンを筆頭とするビッグバンドの演奏は、人をウキウキした気分にさせる魔法の音楽です。あと、1960年代にジェームス・ブラウンが確立させたファンク・ミュージック。基本的に「鑑賞される」ことを目的として演奏されるジャズに比べて、ファンクはリスナーを「踊らせる」ための音楽です。単純なコード進行を16ビートに乗せて、人々を「ご機嫌にする」ことを目的としたダンスミュージックなのです。

ファンク・ミュージックを代表するミュージシャンと言えば、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、クール・アンド・ザ・ギャング、最近だとブルーノ・マーズなどが有名ですが、日本でもファンクを奏でるミュージシャンは数多くおります。古くはラッツ&スターやSUPER BUTTER DOG、近年だと在日ファンクや、290日目に紹介したサチモスなんかもそのジャンルです。その中でも、最近のボクのお気に入りはこのバンドです。

今夜 ダンスには間に合う
散々な日でも ひどい気分でも
今夜 ダンスには間に合う
分かり合えなくても 離れ離れでも
今夜 ダンスには間に合う
何も持ってなくても 失くしてばかりでも
今夜 ダンスには間に合う
諦めなければ

散々な一日の終わり。ひどい気分で、離れ離れで、失くしてばかりでも、諦めなければ、すべてをチャラにしてくれる「ダンス」に間に合う——。恋人とのデート、家族とのディナー、仲間との飲み会。「ダンス」を何の代名詞とするかは聴く人次第ですが、正に「ご機嫌」のコートを羽織ったような、可愛らしい応援ソングです。

「思い出野郎Aチーム」は、2009年、当時多摩美術大学のジャズ研に在籍していたメンバーが結成したバンドで、2015年にアルバム『WEEKEND SOUL BAND』でデビュー。2017年、262日目に紹介したキセルや、174日目の二階堂和美が所属するレーベル「カクバリズム」に移籍し、セカンドアルバム『夜のすべて』を発表。そして先週、ジャケットも愛らしいEP『楽しく暮らそう』をリリースしたばかりの、ソウルバンドです。『楽しく暮らそう』に収録された、『ダンスに間に合う』の続編のような楽曲『去った!』をお聴きください。

今までのこと 君と会って
笑い話に 変わっちまった
針を落とした 二分前までの
退屈な夜が 弾け飛んだ

失ってきたものが
音楽に生まれ変わって
いつかなくなる
街に降り注ぐ

過ぎ去った 去った 去った
何もかも 後ろの方へ
去った 去った 去った
悲しい夜も 良かったことも

やがて 去ってゆくから
全部忘れて ただ踊った
今夜残った 君とふたり
音の鳴る方へ 光の方へ

作詞を担当するのは、ボーカル兼トランペットの高橋一(まこと)氏。その乾ききったダミ声のボーカル(←失礼)とは対照的に、彼の綴る歌詞には、湿り気を帯びた品の良いセンチメンタリズムが溢れています。バンドメンバーと学生時代の思い出を語り合い、「俺たち思い出野郎だな」と笑い合ったことからつけられたというバンド名も、どこかレトロな郷愁を誘うし、「在日ファンク」の凶暴性のあるハッチャケ感や、「サチモス」のいい意味で行き過ぎたオシャレ感とも違う、日本人特有の控え目でハニカミ感のある「上機嫌」さが、彼らの音楽の底辺にある気がします。

「上機嫌」を上手に羽織れるようになるために必要なのは、振り切ったポジティブさや、張り付いた笑顔ではなく、自分にとっての「ダンス」を見つけること、そしてそれを一緒に楽しんでくれる誰かと巡り合うこと、そしてその楽しい時間は人生の中でほんの一瞬で、いつか去ってゆくものなのだと、認識することなのかも知れません。はてさて、ボクはまだ、ダンスに間に合うでしょうか?

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