304日目。先日『マックイーン:モードの反逆児』という映画を観て来ました。90年代から2000年代に掛けて、一世を風靡したイギリスのファッションデザイナー、リー・アレキサンダー・マックイーンの自伝映画。彼の生前のインタビューや、関係者からの言葉を集めて、時系列でマックイーンの生涯を俯瞰していくドキュメンタリーです。
16歳で学校をドロップアウトし、仕立て屋のアシスタントを経て、ロンドンの名門大学「セントラル・セント・マーチンズ」に入学。卒業作品が「ヴォーグ」のスタイリストの目に止まり、卒業制作にも関わらず全ての作品を買い取られ話題となります。93年に独自ブランド「アレキサンダー・マックイーン」を立ち上げ、96年にはフランスの老舗ブランド、ジバンシーの主任デザイナーに抜擢。映画では、彼が演出を手がけたファッションショーの中で、ターニングポイントとなったいくつかのショーを軸に、アレキサンダー・マックイーンという天才の、栄光と絶望を描いていきます。
ボクは、彼と同い年で、同じ時期に、同じロンドンで、同じくデザインを学んでいたのですが、そんなクソみたいな共通点はまったくもってクソなのだと再確認してしまうほど、彼の人生は天才的で、劇的で、情熱的で、そして悲しいほど破滅的なのでした。
彼の作るファッションは、血肉や皮膚や髑髏(スカル)などをモチーフにし、一見するとグロテスクで露悪的ですが、ショーとして舞台の上に登場すると、圧倒的に美しく、強烈かつ耽美で、言葉を失うほど天才的なアートでした。それは「分かる人には分かる」というショボいレベルの天才ではなく、誰が見ても釘付けにされてしまう、暴力的なほどの吸引力を持つ「正真正銘の天才」の業なのです。
そういった「正真正銘の天才」と称えられる人には、おそらく何かしらのコモンセンスがあるような気がします。例えば、マイケル。例えば、ジャニス。例えば、アデル。例えば、ヒカルちゃん。凡人とは一線を画すサムシングを持っている人は、他人には理解できない基準を持ち、指針がぶれず、行動が大胆で、常に新しいものを求める貪欲さがあり、そしてどこか孤高で、何となくうっすらと「死」の匂いを漂わせているような気がします。映画から垣間見えるアレキサンダー・マックイーンは、まさにそういう人でした。
そして「そういや最近そういう感じの人がいたな」と思い出したのは、ここのところ話題沸騰の、この若き女性アーティストなのです。
ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。もうすでに日本でも人気なのでご存知の方も多いと思いますが、アメリカ・ロサンゼルス出身、現在17歳のシンガーソングライターです。
俳優の両親に育てられ、学校へは通わずホームスクールで育った彼女。11歳の時から曲を書き始め、13歳の時に仲良しの実兄と作った楽曲をサウンドクラウドにアップしたところ、翌日にレコード会社からのメールが殺到してしまうほどの、爆発的な再生数を記録。
14歳でメジャー契約し、15歳で全曲作詞作曲を手がけたEP『dont smile at me』をリリース。今年3月にファーストアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』をリリースすると、発売直後に全米・全英共にアルバム・チャートで初登場1位を獲得し、今やちょっとした社会現象になっています。ファンダムの拡張も早く、インスタのフォロワーは現在2億16百万人。コメント数やいいね数で測るエンゲージメントランキングでは、本日現在、世界19位。
彼女の作る「ダークポップ」と呼ばれる音楽は、不安で孤独で荒涼とした暗闇で紡がれるリリックを、メロディアスな美しい旋律に乗せ、囁くように歌い上げるプライベートな作品です。
サウンドには、遠くに聞こえる機械音や、スクラッチのような回音が、隠された秘密のようにひっそりと紛れていて、歌詞には「犯罪」「治療」「完全殺人」「埋葬」「透明人間」などのホラーチックなキーワードが並びます。ファーストアルバムのリード曲『bury a friend』では、自分の中に棲みつく狂気や欲望といった負の感情を「友達」と称し、彼らを埋葬するために葛藤する心の動きを描いています。露悪的でグロテスクだけど、耽美的で美しい。彼女の作る作品は、アレキサンダー・マックイーンのそれに近しいものを感じるのです。
テイラー・スウィフトやアリアナ・グランデが「明るく元気でオシャレ」なティーンエイジャーのアイコンだとすれば、ビリー・アイリッシュは「暗くてギークで孤独」な若者たちの代弁者なのかもしれません。そして「暗くてギークで孤独」は、決して「明るく元気でオシャレ」の反語にはならないからこそ、これほどまでに共感を集めているのでしょう。
まだ17歳なのに、なんとなく人生を見極めてしまったような詞世界。企業や大人たちに取り入られず、自分のやりたいようにやるスタンスと佇まい。様々なものを吸収し、常に形を変えてアウトプットを続けるポテンシャル。そしてほんのりと漂う死生観。「正真正銘の天才」のコモンセンスを、全て兼ね備えた新世代ニューカマーです。