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【無人島89日目】タテタカコ “イキモノタチ”

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イキモノタチ

イキモノタチ

  • アーティスト: タテタカコ
  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: CD


89日目。ちょうど今から10年前に公開されたスタジオ・ジブリの映画「もののけ姫」。みなさん、観ました? ボクは観たはずなんですが、すっかりさっぱりストーリーは忘れちまいました。ダメダメですな。でもなぜかこの映画の公開時のキャッチコピーは強烈に覚えております。糸井重里氏作のそのコピーとは、「生きろ」。アシタカの横顔に白抜きで綴られたその文字を見るたびに、当時のボクは「生きろって言われてもなあ……」と思っていました。「死ね!」とか言われたら、「やだ!」って答えられるけど、「生きろ!」って言われても、「……はぁ」とか言っちゃいそう。病に苦しんでいたり、戦争のただ中にいたり、そういう常に「死」が身近にある状況であればまた違うのでしょうが、ノホホン生きているボクにとっては、「生きろ」というメッセージはなかなかどうしてピンとこないものでした。でもなぜでしょう、ストーリーは忘れてもこのキャッチコピーだけは今でも鮮烈に覚えております。



閑話休題。先週の話です。水曜日は新宿のライブハウス「スモーキンブギ」で、ボクの敬愛する野狐禅のギター兼ボーカル、竹原ピストルのライブを観て来ました。野狐禅についてはもう何度も語ってきましたが、ピストルくんのソロは、野狐禅でやっている音楽よりも、もうちょっと個人的かつアングラな感じです。中学時代の親友との思い出話や、おっぱいパブで出会った少女の話なんかを、ピストルくん流のユーモア溢るるポエムに仕立て上げ、アコギ一本で弾き語る、というか、朗読しながらギターをかき鳴らすというスタイル。そのスピード感のある演奏といい、物語の中にグイグイひっぱり込んでいく語り口といい、まるで平家物語を語るベテラン琵琶法師のようです。いや、琵琶法師、見たことねえけどさ。

翌日の木曜日は、吉祥寺のライブハウス「スターパイン」へ。この日は野狐禅とタテタカコのタイバン。タテタカコの4枚目のアルバム「イキモノタチ」の発売記念ライブで、野狐禅がそのゲストという形式です。会場は野狐禅ファンとタテタカコファンと、ボクみたいな2組とも好きなニッチなファンでごった返していました。タテタカコ氏の紹介は、33日目にも書きましたが、長野県飯田を拠点として活躍するシンガーソングライターで、ピアノ弾き語りで紡がれる彼女の歌は、宮沢賢治の世界にも似て、ガラスのように繊細で、夜空のように漆黒で、ナイフのように研ぎすまされております。分かんねえな、こんな説明じゃ。

野狐禅とタテタカコの音楽は、手法はまったく違うのですが、ボク的には核になっている部分がよく似ているなあと思っています。それは本当にカンタンな言葉にしてしまうと、「生きろ」です。それは生死という意味の「生きる」ではなく、人間として生まれたこの短かくも凝縮された時間を、どうにか我の力で「活ききる」という意味に近いです。ピストルの描く、だらしなく酔っぱらいながらも、自分の歩くべき道を模索し続ける千鳥足や、タテタカコの描く、自分が世界で一番不幸だと信じている少女が口ずさむ歌の中に、そのメッセージは、よく似た形で、秘薬のようにキレイに溶かし込まれているように思えるのです。


身ひとつ成さずにポツポツと

誰もいなくなった商店街

君は慰めもしないだろう

何ひとつ成せない夜だから

星は暗闇に届かない

生い茂った緑は黒い息

湿った匂いと沢の音と

混じり合って僕をはじく

駆け抜けて車だって逃げるように

押し戻す昨日をふり払うように

坂道転げきって歩くんだ

途中まで出来た道を

行き止まりまで

『身ひとつ』タテタカコ


「生きろ」。この3文字のメッセージに対して、何をすればいいのか、未だにボクには分からんのですが、少なくともこの10年の間で、「言われてもなあ……」とは思わんくなったようです。先週観た2本のディープなライブのおかげで、そんなことに気付いたりしました。

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