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【無人島179日目】天童荒太 “悼む人”

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悼む人

悼む人

  • 作者: 天童 荒太
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/11/27
  • メディア: 単行本

179日目。明けましておめでとうございます。つか、遅すぎですな。すんません。お正月休みは特にどこにもいかず、ずっとゴロゴロぐびぐびしてました。ナチュラルボーンな貧乏性なので、普段はまとまった休みが取れると、旅行やらなんやら予定を詰め込みがちなほうなのですが、今回の年末年始の9連休はなにも予定をいれず、実にのんべんだらりとした、ある意味贅沢な冬休みでした。おかげで買うだけ買って棚に積み上げていた本も、かなりたくさん消化できました。年明け一発目はまずその本の中からこの話題作をご紹介。

天童荒太。86年に本名である栗田教行名義で上梓した『白の家族』で野性時代新人文学賞を受賞し、94年に「天童荒太」としては処女作となる『孤独の歌声』で日本推理サスペンス大賞の優秀賞を獲得。00年には130万部を超える大ベストセラーとなった『永遠の仔』で、日本推理作家協会賞と『このミステリーがすごい!』国内部門1位をダブル受賞。寡作ながら、上梓した作品はすべてなにかしらの賞がついてくるという、実力派人気作家です。
そして、今週発表された第140回直木賞という大金星を受賞したのが、この最新作『悼む人』。もうすでに既読された方も多いでしょうが、物語の中心にいる「静人」は、日本中を死者を悼みながら旅しています。その人を知っているか否かに関わらず、例えば道端に小さな献花を見つければ、あたりにいる人々にそこで亡くなった人が「誰に愛され、誰を愛し、どんなことをして人に感謝されていたか」をヒアリングし、それを元に死者を悼み、ノートにつけ、またいつか旅の途中でその近くまできたら、同じ場所で同じ人を悼むのです。
って、こんな説明じゃワケ解らんと思います。実際本を読み進めていっても、半分を過ぎるくらいまで、ボクは彼が一体なにをしているのか、その行動に何の意味があるのかさっぱりわかりませんでした。推理小説家としての評価も高い天童氏ですが、そういう意味では今回は主人公自体がミステリーなのです。
半分を過ぎるあたりまでは正直かったるく、「なにしてんねん、こいつ」などと思いながらタラタラ読んでいたのですが、後半に差し掛かり静人の独白あたりからはグイグイ物語に引き込まれ、クライマックスでは思わず落涙するほどの感動を受けました。あまり書くとネタばれになってしまうのでもうやめますが、人がなぜ死を恐れるのか、本当に怖いことはなんなのかということを、逆説的ながらこれほど的確に指摘した小説をボクは読んだことがありませんでした。テーマや設定は違いますが、62日目に紹介したカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にも似た衝撃があります。
暗鬱としたテーマではありますが、『永遠の仔』の切実さと、前作の『包帯クラブ』の明るさを、ちょうど足して2で割ったような感じの作品です。そしてミステリーでもありながら、心打つ鮮やかなラブストーリーでもあります。直木賞選考委員の井上ひさし氏が「人間の一番大事な“生と死と愛”の3つを相手にし、悪戦苦闘する天童さんの姿が作品と重なり、力作感あふれる作品。文学が世界に何をできるか、真摯にぶつかっている」と評していましたが、正にその通りだと思います。「真摯」。その言葉がこの本には一番似合うのです。

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