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【無人島235日目】ウォルター・アイザクソン 『スティーブ・ジョブズ』

投稿日:2011年10月6日 更新日:

235日目。ボクがそれまでの仕事をやめて、グラフィック・デザイナーを生業にしようと決心したのは1994年です。ハッタリをかまして出版社のデザイン部門に潜り込み、生まれて初めてあてがわれたコンピュータはMacintoshのQuadra 605でした。それから7100になり、タワー型の8500に移り、G3になった頃、別の会社に転職し、それから数年後、デザイナーとして稼いだ金で自分用のPowerBook G4 Titaniumを買ったときの高揚感は、もう10年も前の話なのに、まるで昨日のことのように覚えています。

絵描きが慎重に筆を選ぶように、料理人が丁寧に包丁を研ぐように、写真家が大切にレンズを磨くように、ボクは仕事道具として、Macintoshコンピュータを長く愛してきました。

その仕事道具にはいつも、その時代の最先端の技術が積まれ、ボクに実力以上のモノを作れる「魔法」を与えてくれました。カツカツの才能を、その魔法の道具でごまかしごまかし、ボクはどうにか食いつないできたのです。OSが新しくなり、魔法の使い方が変わるたびに、ボクは戸惑い不平を垂らしながらも、魔法を享受する端くれとして、決して遅れをとらないようにと必死についていきました。

その魔法の道具を発明した人が本日お亡くなりになりました。もちろんボクは会ったことも話したこともありませんが、その人の魔法がなければ、ボクは今この場所にはいなかったことでしょう。その人は道具にだけでなく、ボク自身にまで魔法を掛けてくれたのです。『Stay Hungry, Stay Foolish』。その呪文を忘れずに、これからも彼の生み出した魔法の道具とともに、ボクはボクだけの仕事を続けていこうと思うのです。R.I.P.

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