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【無人島143日目】佐々木譲 “警官の血”

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警官の血 上巻

警官の血 上巻

  • 作者: 佐々木 譲
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09/26
  • メディア: 単行本

143日目。ボクは両親ともが教師だったこともあり、子供の時は「将来の夢は学校の先生!」などとほざいておりましたが、成長し自分自身がわかりはじめるにつれ、「いやいや、オレは人にモノを教えるようなしっかり者キャラではないな」と気づき、早々に諦めたワケです。賢明だったと思います。ただ両親からしてみれば、自分の仕事に憧れて、その道に進んでくれれば、そりゃうれしかったに違いなかろうとは思います。ごみんね、ちゃんと血を受け継がないで。しっかり者キャラに育てられたら、うっかり者キャラになっちゃいました。ワハ。残念。



1990年に『エトロフ発緊急電』で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞した佐々木譲の最新刊『警官の血』。本年度「このミステリーがすごい!大賞」国内第1位に選ばれた、上下巻合わせて約800ページの大作です。

あらすじを自分なりにまとめて紹介しようと思ったのですが、あまりにも超大作すぎてうまくまとまらなかったので、ここはちょっとズルをして、出版社の内容紹介文を引用させていただきます。手抜きでごみんなさい。


汝の父を敬え——制服の誇り、悲劇の殉職。

警察官三代を描く、警察小説の最高峰誕生!

昭和二十三年、上野署の巡査となった安城清二。

管内で発生した男娼殺害事件と国鉄職員殺害事件に疑念を抱いた清二は、

跨線橋から不審な転落死を遂げた。

父と同じ道を志した息子民雄も、凶弾に倒れ殉職。

父と祖父をめぐる謎は、本庁遊軍刑事となった三代目和也にゆだねられる……。

戦後闇市から現代まで、人々の息づかいと時代のうねりを甦らせて描く

警察小説の傑作。


さすが出版社。ちょっと簡潔すぎますが、その通りでございます。ジャンル的にはミステリーかも知れませんが、それよりも同じ血を引いた3人の男たちが、異なる時代の中で、微妙に別々の道を歩いていくという、ちょっとパラレルワールド的な要素を含んだ、ヒューマンドラマです。

一人目の清二は、真面目で社交的。二人目の民雄は、行動的で神経質。三人目の和也は、タフで頭脳派。それぞれキャラは違うのですが、ベースにある「正義感」という通低音で結ばれていて、ひとつの役を3人の役者が演じ分けているような彩りがあります。また清二の章で起こる2つの事件の謎が、3代目の和也の章でようやく解き明かされるという軸が、この大河ドラマのような長編をきっちりと縛りあげています。

佐々木譲氏の本ははじめて拝読しましたが、感情を込めずにただ淡々と目に映るものを描き起こしていく筆致は、逆にスリリングでドキドキしました。宮部みゆきのミステリーの書き方にも似ていますが、より男性的で、フィルムノワールの時代のフランス映画みたい。無機質でザラザラしてて、でもすごく生身の人間の温度が感じられる。そんな表現力です。

この本の中に何度かでてくる単語で『薫陶』という言葉があります。辞書で引くと、『人徳・品位などで人を感化し、よい方に導くこと』で、親の跡目をついで警官になった息子たちに、周りの大人が「お父様の薫陶が良かったのだろう」などと言うのです。はてさて、ボクには親からの薫陶がなかったんでしょうか?

いやいや、そんなことはないですな。「同じ仕事につく」=「よい薫陶」というワケではないでしょう。同じトーンの通低音を、ちゃんとキャッチできているか否か。多分、それが一番大事なんだと思うのです。しっかり者からうっかり者へ。うわ!キャッチできてないじゃん!

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