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【無人島178日目】野狐禅 “野狐禅”

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野狐禅

野狐禅

  • アーティスト: 野狐禅
  • 出版社/メーカー: 3d system(DDD)(M)
  • 発売日: 2008/12/17
  • メディア: CD

178日目。すっかり年の瀬でございます。ついこのあいだ、石垣島の神社で初詣をして、きれいなお守りを買ったばかりのような気がするのですが、あれからもう1年ですか。日々のスピードはますますアクセル全開で加速しているようでございます。ボケーッとしとると、ジェットコースター的に爺さんになってしまいそうなので、ブレーキをかけるような心持ちで、感銘を受けた本や、感動を与えてくれた音楽のことを、ひとつずつこのブログに綴っとるワケですが、今年は35枚のCDと4冊の本しかご紹介できませんでした。ふがいないやいや。しかし年内にこのCDのことを書いておかないと、どうしても年越しができないような気がするので、今日は駆け込みで今年最後のオオトリをレビューします。

なにかっちゃあこのブログに書いておるで、もう改めて紹介するのもなんなんですが「野狐禅」。07年1月にそれまで所属していた大手レーベル、オフィス・オーガスタとのマネージメント契約を終了し、インディーズに戻った彼ら。その後、ボーカル兼ギターの竹原ピストル君は、このブログにもしつこく書いている通り、ホテル清掃のアルバイトを続けながら、ソロとしてマンスリーライブを敢行。相方でありキーボード兼コーラスの濱埜宏哉君は、DJとしての活動をスタートし、映画音楽を手がけたりしておりました。
もちろんその合間にも「野狐禅」としての活動は続けており、ライブなんかもちょこちょこやってはおりましたが、06年6月にメジャーとして最後にリリースしたアルバム『ガリバー』以降、目立った活動はありませんでした。野狐禅ファンを公言するダウンタウンの松本人志氏もラジオで「野狐禅はどうしてんねん?」と心配しておったとか。そのくらい長い間、バンドとしての音沙汰がなかったのです。
そして待つこと2年半。長い沈黙の後にようやく今月届いたのが、「野狐禅」としては5枚目のアルバムとなる、その名も『野狐禅』。札幌を拠点にするWESS RECORDSというインディーズ・レーベルからの再スタートとなるこの作品は、40分にも満たない小品ではありますが、札幌のスタジオに閉じこもり、全くの二人きりで演奏された、濃密で濃厚な蒸留酒のような珠玉の楽曲が詰まっております。
二人きりということもあり、音的にはとてもシンプルで、01年のファースト・アルバムに近いものがありますが、曲作りとしては、特に竹原ピストル君がソロ活動で培った経験と成長が、大きく反映されているようです。
まるで早口言葉のように言葉を詰め込み、メロディーをねじ曲げてでも、自分の伝えたいメッセージを語り尽くしていた以前のスタイルは消え、日本語という言語の持つ力と繊細さを充分に考慮しつつ、いかに少ないセンテンスで聞き手にすんなりと正確に伝えられるかということを意識した、短く、しかし研ぎすまされた歌が多いです。例えばボクのお気に入りは、『気付けなかったよ、ごめんね』というこんな歌。
私の場合ため息をつく度に
幸せが舞い込んで来たような気がするよ
だって私がため息をつく度に
あなたが優しく励ましてくれたから
だから私はしばしば
わざとため息をついた
ちっとも切なくないのに
わざとため息をついた
だから私はしばしば
わざとため息をついた
あなたの優しさに触れたいがために
わざとため息をついた
ああ…
あなたのため息には気付けなかったよ
ごめんね
ああ…
気付けなかったよ
ごめんね
これで全詞です。短い言葉ながら、どういう付き合いがあり、どういう別れがあったのかを、墨汁で描いた一筆書きのように、鮮やかに表現した傑作です。きっと以前なら、もっと言葉を詰め込んだ楽曲になっていたのかも知れませんが、今回はあえて削って削って、そして最後に残った言葉が「気付けなかったよ、ごめんね」という一言だったのかと思うと、そのセンスに、なんだかボクは泣けてきます。
この他にも「エイ!エイ!オーッ!」という掛け声を、あえて泣き声に例えた『えいえいおーと泣くのです』や、「ヨーイ、ドン!」を掛けた『よう挑んだ』、THE BLUE HEARTSの名曲『TRAIN TRAIN』をもじった旅の歌『トレインとレイン』など、独特な言葉遊びを使った曲が満載です。全然ジャンルは違うのですが、前回夏木マリのプロデューサーとして紹介した小西康陽の世界にも、ちょっと近いような気もします。その、斬新な言葉選びのセンスを持ちながら、あくまで日本語を大事に扱っている、というところが。
なにはともあれ、今年最後にボクの大好きな「野狐禅」が紹介できてよかったです。来年はもうちっと頻繁に更新したいと存じますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。皆様、よいお年をお迎え下さい。来年ボクは、前厄です。きゃー。

-CD

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