119日目。まだまだ暑い日が続きますが、台風とともに夏が帰り支度をはじめ、せっつくように秋がすぐそこまで来ております。日中は引っ込み損ねた蝉の合唱、日が落ちるとフライング気味の松虫管弦楽団の2ステージが、朝な夕なに1日で楽しめる、お得な季節。ミーン、チンチロ、ミーン、チンチロ。結局夏休み、取り損ねちゃったね。ミーン、チンチロ、ミーン、チンチロ。海にも山にも行けなかったね。ミーン、チンチロ、ミーン、チンチロ。乗り遅れてばっかりの人生だね。ミーン、チンチロ、ミーン、チンチロって、やかましわい! 耳を塞ぐかわりにつっこんだイアフォンから流れてきたのは、この人の歌。
カナダはカルガリー出身の新星「Fiest」。本名はレスリー・ファイストという、今年31歳の女性シンガーソングライターです。2004年に出したワールド・デビュー・アルバム「Let It Die」が、カナダでプラチナ・アルバム、フランスでゴールド・アルバムとなり、日本でも輸入盤だけで2000枚以上を売上げるヒットとなった彼女。今年リリースされた待望のセカンド・アルバムがこの「The Reminder」です。
彼女の特徴は、なんと言ってもまず声。一般的な美声ではないし、決して歌唱力が高いとも思わんのですが、なんとも印象深いボーカリングで、彼女の作る世界観の重要なファクターとなっております。ちょっと違うかもしれませんが、メイシー・グレイにも近いかな。激しさの中に孤独とせつなさが同居しているような、幸の薄いハスキーボイス。いい意味でね。
ソングライターとしても優秀で、そのキャッチーで叙情的なメロディーラインは、稀代のメロディーメーカーとして名高いバート・バカラックなどを引き合いに出されるほど。ファースト・アルバムではカバー曲が目立ったのですが、今回の「The Reminder」では、13曲中8曲はファイスト自身のオリジナルで、残りの5曲も同郷のシンガー・ソングライター、Ron Sexsmithなどとの共作になっています。
まずはアルバムからのファースト・シングルになった「1234」を聴いてもらいましょう。この曲は先週発表されたAppleの新しいi-Pod NanoのCMソングに起用されています。
アコースティックでフォーキーなのに、どこかしらエレクトロニカな匂いを感じさせるアレンジ。シンプルながら、計算尽くされた映像。このPV1本だけでも、彼女のセンスの高さを感じます。今年はフジロックにも参戦し、CDのイメージとは違う激しいステージ・パフォーマンスでも話題になったそう。ちくしょー、行きたかったー!
特にこのアルバムの中では、来るはずのない彼を公園で見かけた気がして、そんなことあるはずがないじゃない、とひとりごちる「The Park」がボクのお気に入り。その激しさと心細さは、どこか今の季節の虫の鳴き声にも似ている気がするのです。ミーン、チンチロ。