168日目。数週間前のことになりますが、ショーン・ペン監督の『INTO THE WILD』という映画を観てきました。いやいや、素晴らしかった。ボクがここ数年間で観た映画の中では、間違いなくベスト5に入る傑作でしたな。ボクはショーン・ペン監督の91年の作品『インディアン・ランナー』という映画がもの凄く好きなのですが、今回の『INTO THE WILD』と『インディアン~』の共通項は、「当たり前に生きることの難しさ」みたいなこと。幸せってなに? 家族ってなに? 愛ってなに? 生きるってなに? そんな考えても絶対に答えが出ないし、むしろ考えない方が楽に生きられるはずの命題を、真剣に追い求めることの、高貴さと無益さ。そんなことをテーマにした映画です。
『INTO THE WILD』は実話が基になっていて、裕福な家庭に育ち、エリートコースのど真ん中にいる22歳の青年が、ある日突然すべてを投げ捨ててアラスカの荒野に旅立ち、2年間流浪を続けたあげく、最後は荒野で野垂れ死ぬという衝撃のストーリー。映画では、青年の歩いた道や出会った人を辿りながら、彼が何を思い何を考えたのかを綿密に描いていきます。
ジャンルは違いますが、『自我』をテーマにしているという点で、89年のアメリカ映画『いまを生きる』にも近いでしょうか。ロビン・ウィリアムズ演じる教師が、教室で生徒に読み説くヘンリー・D・ソロー著『森の生活』を、『INTO THE WILD』の主人公も荒野で読んでいました。金儲けやエリート社会とは正反対の位置にある、清貧と隠遁の世界。魂の解放、高邁な思想、自然との共生。誰とも交わらず、本を読み、狩りをし、食べて、眠る。一度はバックパックを背負って、ヒッチハイクなんぞをしながら、長期間一人旅したことのある人ならわかるはずの、あの孤独という名の贅沢な時間を、見事にスクリーンに定着したのが、この『INTO THE WILD』という映画でした。
音楽は、ベテラン・ヘヴィロックバンド、パール・ジャムのフロントマン、EDDIE VEDDERが担当。OST(オリジナルサウンドトラック)は、EDDIEがほぼ全曲の全パートをひとりで演奏するという気合いの入りまくった作品になっております。その中でも特にボクのお気に入りは、この『SOCIETY』。
確かに若さの持つ無謀さや愚かさは否めないし、この『INTO THE WILD』の主人公の遁走を手放しで賛美することはできませんが、陳腐に言うなら「男のロマン」的なものをジンジンに感じました。出世? 金儲け? 糞くらえ、バカ野郎! 男はなあ、貯金の額で価値が決まるワケじゃねえんだ! ひとり荒野の中で、どれだけ生き抜けるかどうかよ! って今のボクが言うと見事に、負けDOG feat. 遠吠え。つうか、荒野でなんか1日も生きられそうもありませぬ。むー。INTO THE MILD。