262日目。我が家には「パープルパロットファイヤー」という種類の熱帯魚がおりました。名前は競走馬のようですが、容姿は太り過ぎの金魚に似て、口元がいつも笑っているようで、とても愛らしいのです。しかし気性はかなり荒く、最初は3匹おったのですが、狭い水槽の中でバトル・ロワイヤルを繰り広げ、勝ち残ったウィナーの一匹が、長らく我が家で悠々自適に暮らしておりました。エサをもりもり食べ、当初は全長5センチほどの小ぶりな魚だったのに、あれよあれよと3倍強に膨らみ、エサをやろうとする主人の手元までジャンビング・ゲットをかましてくる、ランブルなフィッシュでした。そんなこんなで5年ほど一緒に暮らしましたが、先日仕事が遅くなり深夜に帰宅したところ、なぜか水槽の外で冷たく(?)なっていました。たぶん帰りが遅い主人に腹を立て、力任せに水面ジャンプをかましたところ、水槽のふちを飛び超えてしまい、そのまま事切れてしまったのでしょう。享年おおよそ5歳半。死に様までワイルドだったボクのルームメイトのために、今日はこの歌を。
君の犬が死んだ朝
いつもと同じ雨の朝
お久しぶりね
君からの便りのなかに
新聞になんて書いてないのさ
少しのあいだ泣いてみたんだ
君も帰ってこないんだと
分かった気がして
君に会えないようにね
君の犬にも会えないな
その手その声好きだった
君を好きなように
真夏のように生きていたね
僕らのそばで
夢の浜辺に埋めましょう
掘っても掘っても指先に
触れてくるのは柔らかな
想い出ばかり
岬の波間で揺れるのは
白い小さな僕らの舟
からっぽのままで出てゆくよ
輝く海へ
134日目にも紹介した兄弟バンド「キセル」の2008年のアルバム『magic hour』に収録された『君の犬』という歌です。ドリミーなアレンジの多いキセルには珍しく、高田渡にも通じる王道なフォークミュージックで、元恋人の犬の死をきっかけに悟る『終焉』を歌った佳曲です。
犬や猫のように、触れたり芸を仕込んだりといった交流はありませんでしたが、いつもヤツはクールな傍観者のように、水槽の中からもの言いたげな瞳でじっとボクを見つめていました。気の利いたアドバイスもエッジの効いたジョークもない代わりに、暴れて床をびしょびしょにしたり、たまにふてくされたようにぐったりしてみせたりしながら、ルームメイトとして、彼なりの心で、ずっとボクを見守っていてくれていたような気がします。帰りが遅くなってゴメンね。助けてあげられなくてゴメンね。真夏のように生きていたね。5年間ありがとう。R.I.P.