CD

【無人島262日目】キセル 『君の犬』

投稿日:2014年2月27日 更新日:

262日目。我が家には「パープルパロットファイヤー」という種類の熱帯魚がおりました。名前は競走馬のようですが、容姿は太り過ぎの金魚に似て、口元がいつも笑っているようで、とても愛らしいのです。しかし気性はかなり荒く、最初は3匹おったのですが、狭い水槽の中でバトル・ロワイヤルを繰り広げ、勝ち残ったウィナーの一匹が、長らく我が家で悠々自適に暮らしておりました。エサをもりもり食べ、当初は全長5センチほどの小ぶりな魚だったのに、あれよあれよと3倍強に膨らみ、エサをやろうとする主人の手元までジャンビング・ゲットをかましてくる、ランブルなフィッシュでした。そんなこんなで5年ほど一緒に暮らしましたが、先日仕事が遅くなり深夜に帰宅したところ、なぜか水槽の外で冷たく(?)なっていました。たぶん帰りが遅い主人に腹を立て、力任せに水面ジャンプをかましたところ、水槽のふちを飛び超えてしまい、そのまま事切れてしまったのでしょう。享年おおよそ5歳半。死に様までワイルドだったボクのルームメイトのために、今日はこの歌を。

君の犬が死んだ朝
いつもと同じ雨の朝
お久しぶりね
君からの便りのなかに
新聞になんて書いてないのさ
少しのあいだ泣いてみたんだ
君も帰ってこないんだと
分かった気がして
君に会えないようにね
君の犬にも会えないな
その手その声好きだった
君を好きなように
真夏のように生きていたね
僕らのそばで
夢の浜辺に埋めましょう
掘っても掘っても指先に
触れてくるのは柔らかな
想い出ばかり
岬の波間で揺れるのは
白い小さな僕らの舟
からっぽのままで出てゆくよ
輝く海へ

134日目にも紹介した兄弟バンド「キセル」の2008年のアルバム『magic hour』に収録された『君の犬』という歌です。ドリミーなアレンジの多いキセルには珍しく、高田渡にも通じる王道なフォークミュージックで、元恋人の犬の死をきっかけに悟る『終焉』を歌った佳曲です。

犬や猫のように、触れたり芸を仕込んだりといった交流はありませんでしたが、いつもヤツはクールな傍観者のように、水槽の中からもの言いたげな瞳でじっとボクを見つめていました。気の利いたアドバイスもエッジの効いたジョークもない代わりに、暴れて床をびしょびしょにしたり、たまにふてくされたようにぐったりしてみせたりしながら、ルームメイトとして、彼なりの心で、ずっとボクを見守っていてくれていたような気がします。帰りが遅くなってゴメンね。助けてあげられなくてゴメンね。真夏のように生きていたね。5年間ありがとう。R.I.P.

 

-CD
-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

no image

【無人島149日目】Egil Olsen “I am a singer / songwriter”

I Am A Singer/Songwriter アーティスト: エギル・オルセン 出版社/メーカー: Lirico 発売日: 2008/04/04 メディア: CD 149日目。現在ボクの周りに数人 …

no image

【以前の無人島24日目】Arctic Monkeys “Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not”

Whatever People Say I Am Thats What I Am Not アーティスト: 出版社/メーカー: Domino 発売日: 2006/02/21 メディア: CD 24日目。 …

【無人島221日目】Everything But The Girl 『Time After Time』

Acoustic(SHM-CD) 221日目。今から10年以上前の話ですが、ボクはアメリカのロサンゼルスで働いていたことがあります。本当はニューヨークに住みたくて、現地の日本語出版社に入社したつもりが …

no image

【無人島116日目】サケロックオールスターズ “トロピカル道中”

トロピカル道中 アーティスト: サケロックオールスターズ 出版社/メーカー: CHORDIARY 発売日: 2006/08/09 メディア: CD 116日目。暑かった夏も、徐々に帰り支度を始め、空の …

no image

【無人島39日目】Kaki King “…Until We Felt Red”

Until We Felt Red アーティスト: Kaki King 出版社/メーカー: Velour 発売日: 2006/08/08 メディア: CD 39日目。小学4年生の誕生日にアコースティッ …