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【無人島213日目】Copeland 『You Are My Sunshine』

投稿日:2010年11月10日 更新日:

213日目。マガジンハウスの雑誌『BRUTUS』の最近の号で、「せつない気持ち」を特集した回がありました。秋も深まるこの季節、楽しいよりもおもろいよりも、日本人は「せつない」を求めるのでしょう。特集の中にもあったのですが、英語で「せつない」を表す単語というのはないんですね。近い意味合いの「heartrending(胸が張り裂ける)」「it pains me(苦しい)」だと、「せつない」の持つあの「甘さ」みたいなのが足りない。言葉がないということは、そういう感情的文化が発達していないということなのかも知れませんが、この人たちの音楽を聴いていると、いやいやそんなはずはないだろう、とも思うのです。

今年の春、惜しまれながらも解散した、アメリカ・フロリダ州出身のバンド「Copeland」。ジャンルで言うと「エモ」と呼ばれるカテゴリーに入る彼らが演奏するのは、美しくメロディアスな旋律に、苦しくも甘いリリックを重ね合わせた「切なさの骨頂」のような音楽です。

4枚しかフルアルバムを残さなかったバンドですが、その中でもボクが愛してやまないのが、最後の作品となった08年のアルバム『You Are My Sunshine』に収録された『The Day I Lost My Voice (The Suitcase Song)』という曲。逆転の発想が面白過ぎるPVもつけておきましょう。

「ボクはボクの人生をスーツケースに詰めて、いつでも逃げられる準備をしてきたんだ」とリフレインするこの歌は、愛する人に裏切られ、それに対して怒りも責めもせず、ただ「だと思ってたんだ……」と呟く男の、置き手紙のような言葉が歌詞になっています。この曲以外にも、「もしも君が戻ってきたら」と空しい想像を膨らませる『Should You Return』や、作り笑顔の彼女に「がんばってばかりだとダメになっちゃうよ?」と諭す『Chin Up』など、このアルバムには「Heartrending」でも「Painful」でもない、「せつない」歌が満載に収められています。ジャケットもうっすら紅葉の風景画ですが、他のどの季節よりも、このアルバムは今の季節が似合うのです。

最後に余談にはなりますが、「なつかしい」という日本語も直訳の英単語がありません。昔辞書で引いたら「it reminds me of the old days」などという文章が出てきて驚いた覚えがあります。古い写真を見つけたりして「なつかしー!」って言いたい時に、「これはボクに古き日々を思い出させますね!」ってちょっとね。じゃあアメリカ人はそういう時なんて言っているのかと言うと、「Wow!」って言うんです。んで、しみじみしたりせず、間髪入れずに当時の思い出話になるんですな。「ワオ!見てこの写真!この時メアリーがチョコバーを鼻から食べたのよ!ボビー、覚えてる?」みたいな。そう思うと、やっぱりちょっと感情的文化が違うのかも……と思ったり。

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