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【無人島93日目】Aqualung “Memory Man”

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Memory Man

Memory Man

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Red Ink
  • 発売日: 2007/03/13
  • メディア: CD

93日目。公開中にうっかり見逃してしまったので、今週レンタルDVDで映画「ゆれる」を観ました。田舎で親の家業を継いだ実直で冴えない兄貴と、東京でフォトグラファーとして活躍するチャラチャラしたモテ男の弟。ルックスも生き方も正反対だけど、お互いのことが大好きな兄弟が、母親の葬式で久しぶりに再会します。翌日、幼なじみの女の子を誘って、3人で近くの渓谷までドライブした時に起こったある事件。その事件をきっかけに、お互いの自我と献身、疑惑と信頼の間で兄弟の絆はゆれはじめます。まったく似ていない香川照之とオダギリジョーが、ちゃんと兄弟に見える2人の演技力。ギリギリまで削ぎ落とされた台詞。ドキュメンタリー並みに抑えた演出。いろいろな可能性を匂わせたまま、スパン!と降りる幕切れ。いやはや見事です。ボクも4つ違いの兄貴がいるんですが、こんな状況になったら、オダジョーみたいに動けるかね? う〜ん。



話は飛んで、アクアラング。イギリス・ウィンチェスター出身のシンガーソングライターで、本名マット・ヘールズ君のひとりユニットです。現在35歳。学生時代から、実弟のベン君と一緒にバンドを組んで、インディーズで活躍していましたが、01年に念願のメジャーデビューを果たすも、現実は厳しく、まったくの鳴かず飛ばずで、翌年に契約は打ち切られます。「もうあかん。おれら、終わりにしよや」てな話で、結局兄弟バンドは解散。

しかしその直後、マット君は代理店から、フォルクス・ワーゲンのCMに使えるような曲はないかとの打診を受け、書き下ろしたばかりの「Strange & Beautiful」という曲を提供したところ、オンエア直後視聴者からの問い合わせが殺到。急遽リリースしたシングルは、UKチャートでトップ10に入るヒットに。続いて自宅で1人で制作したアルバム「aqualung」をリリースするや、ゴールド・ディスクを獲得し、あれよあれよとトップ・ミュージシャンになりました。

となると、やっぱ気になるのはベン君の反応。「兄ちゃん、ずるいやん! オレのこと、ずっと邪魔や思てたんやろ! 足手まといやて思ってたんやろーっ!!」ってキレたかどうかは知りませんが、きっとそんな心境だったでしょうな。自分と離れた途端、売れまくったワケですから。オレってサゲ○ンかよ!?とか思うよな、きっと。うんうん。確かにそうかもね。(←ひどい)

でも、そこは優しいお兄ちゃんのマット君。売れた後も、ツアーには必ずベーシストとしてベン君を同行させ、先月リリースされた3枚目のアルバム「Memory Man」では、 共同プロデューサーとして名前を連ねています。マット君のホームページでは「Making Memory Man」という特設ページで、マット君とベン君がこの新作の制作裏話を2人で綴っていたりします。優しいねえ。「兄ちゃん……、オレのこと邪魔やないんか?」「バカ! オレたちたったふたりっきりの兄弟じゃねえか!」「に、兄ちゃん……」みたいなね。良かったじゃねえか、サゲ○ン!(←あだ名?)

さて、音楽的な話もすると、アクアラングは、レディオヘッド、コールドプレイなどの系譜で、エロクトロニカに傾倒した、美メロかつナイーブな世界観が特徴的です。しかし新作「Memory Man」では、力強ささえ感じる骨太さがある。アルバムからのファースト・シングルになった「Pressure Suit」は「ボクはキミの呼吸装置になる。ボクはキミの減圧服になる」という、美しくも包容力のある名曲。PVはこちらから。

まったく関係ない話ですが、ボクは18歳で家を出た時から、兄貴とは一緒に住んでいません。だからもう、人生の半分は他人として暮らしているワケです。別に仲が悪いワケでも絶縁状態なワケでもないけれど、ふたりきりで酒を飲んだり、腹割って話したりなんて機会もほとんどありません。子供の時は、家族でもあり、ライバルでもあり、先輩でもあり、友達でもある大きな存在でしたが、今ではほぼ「他人」と言っても過言ではないでしょう。でも「ゆれる」の主人公や、マット君とベン君のように、いつかどこかで、ちゃんと向き合うなきゃいけない日がくることも、なんとなく分かってるんです。なぜって? だって兄弟だから。

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