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【無人島172日目】UKAWANIMATION! “ZOUNDTRACK”

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ZOUNDTRACK(DVD付)

ZOUNDTRACK(DVD付)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: エイベックス・エンタテインメント
  • 発売日: 2008/10/29
  • メディア: CD

172日目。先週の金曜日の夜中、新宿の交差点でウロウロする、挙動不審な等身大のピカチューに遭遇しました。もちろん着ぐるみで、かぶっていたのは中年サラリーマン風のおっさんでした。志村けんなみに二度見してしまいましたが、どうやらハロウィーンの仮装を履き違えてしまった人だったようで、真夜中の信号の色に浮かび上がる疲れきった表情は、ある意味本物のお化けより怖かったです。かくいうボクも、かつて米国暮らしをしていた時、オフィスで「明日はハロウィーンだからみんな仮装で会社に来るように!」とのお達しを受け、それまで仮装なんてしたこともなかったので、さんざん一人で悩んだあげく、髪型をモヒカンにしてスモウレスラーの格好で会社に行ったら、絶句したアメリカ人スタッフに一言「……ワオ」って言われたことがありました。多分その時のボクは、あのピカチュー親父と同じ表情をしていたと思います。

なににつけ初めてのことに取り組む時には、その「サジ加減」的なモノが分からず、やりすぎちゃったり、履き違えちゃったりします。でも逆に、慣れてしまって要領が分かってしまうと、その枠の中でしか動けなくなってしまうので、面白くなくなってしまうというジレンマもあったりします。「初体験」の時にしか味わえない、アドバンテージとディスアドバンテージ。それを考えると、ピカチュー親父なみに振り切ってしまったほうが、実は正解なのかもしれません。
何の話かというと、宇川直宏氏の初の音楽プロジェクト「UKAWANIMATION!」の話です。宇川直宏氏のプロフィールをすべて書き上げると枚挙に暇がないのですが、Wikipediaに載っている肩書きだけをコピペしても、グラフィックデザイナー、映像作家、ミュージック・ビデオディレクター、VJ、文筆家、司会業、TV番組プロデューサー、レーベルオーナー、パーティーオーガナイザー、ファッションブランドディレクター、サウンド・システム構築、クラブオーナー、大学教授、日本自然災害学会正会員、現代美術家という、要するに何をしておられるのか、よく分からない感じの方ですが、デザイナーやクリエイターを志す人たちの間では、絶大なる人気を誇るアーティストです。古くは雑誌『映画秘宝』の表紙デザイン、近年ではボアダムスやテイ・トウワ、電気グルーヴ、スチャダラパーなどの、PVやライブのVJなどで、彼の名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。
少し話がそれますが、6~7年ほど前にボクはこの人にお会いしたことがあります。今でも覚えているのは、当時はまだ一般に浸透していなかった「ヤバい」という単語を、彼が連発していたことです。「あの映画はヤバいよね」。「この企画ヤバくね?」。今ではフツーに通じる言い回しですが、当時はまだ誰も使っていなくて、ボクは「ヤバくね?」と聞かれるたびに、意味がわからず「ハァ」などと曖昧に頷いていた記憶があります。
そんな宇川氏が先月、自分名義のプロジェクトでアルバム「ZOUNDTRACK」をリリースしました。とは言え、宇川氏自身が演奏をしているのではなく、彼が作った歌詞や絵コンテをもとに、石野卓球、元スーパーカーの中村弘二、BOREDOMSのEYEなど、彼と交流のあるミュージシャンたちが楽曲化したもの。もちろん全曲に宇川氏自身の制作によるPVもついています。
つまりこのアルバムは、今まで音楽という分野に身を置いていなかった宇川氏の「初体験」なワケですが、ピカチュー親父どころの話じゃない、振り切りっぷりがスゴいです。宇川氏が描く、サイケでビビットで、エロでグロなあのグラフィックの世界を音に落とすと、確かにこういう音楽になるのでしょう。全編を通して、意味不明な電子音と理不尽な雑音が混じり合い、聴いている者の神経を逆撫でしつつも、もう一度聴いてみたくなる中毒性をはらんでいます。特に先行シングルとなった「惑星のポートレイト 5億万画素 feat. 石野卓球+萩原健一」は必聴。突き抜け過ぎ。つか、ショーケンってすげー。
音楽的にどうとか、演奏がどうとか、そういう尺ではまったく測れない、宇川ワールドがそこにはあります。ジャンル? トラック? ミックスダウン? なにそれ? オレわかんない。だって初めてだもん。そううそぶきながら、「でもコレ、ヤバくない?」ってニヤニヤする宇川氏の顔が見えるようです。そして一番「ヤバい」のは、やっぱり間違いなく宇川氏自身なのです。

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