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【無人島94日目】枡野浩一 “ショートソング”

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ショートソング (集英社文庫)

ショートソング (集英社文庫)

  • 作者: 枡野 浩一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫

94日目。昨日の「昭和の日」振替休日は、友人知人総勢10名で、多摩川べりでバーベキューをしてきました。友人と言っても、ボクが知っているのは2人のみで、残りの7人は初対面。しかも男女半々! ドキドキ! いやウソ。そういうドキドキ感もすっかり忘れつつある三十路の下り坂。挨拶も早々に、ピッチも考えずにガンガン飲んで、鉄板の横に陣取って焼き上がる肉をマシンのように食いまくり、酔っぱらって野菜炒めにビールぶっかけたり、ちょっとはいいとこ見せねばと作り始めた焼きソバはベタベタで、ふてくされて横になったビニールシートで、結局グーグー寝てしまうというていたらく。むっつり起き上がった後、見事に晴れわたった多摩川のほとりで、ひとり短歌を詠んでみた。

焼きそばの油がちょっと多過ぎない? 初めて会ったキミに怒られ(ハチ)



なんで短歌なんかを詠んだかというと、つい最近読み終わったこの本のせい。枡野浩一氏の初長編小説「ショートソング」。以前の無人島 でもご紹介しましたが、著者は東京生まれの歌人さん。短歌の歌集をたくさん上梓されているのはもちろん、NHKで短歌の番組を担当したり、入門書「かんたん短歌の作り方」やご自身のブログを通して若手歌人を輩出したりと、現代口語短歌界のフロントライナーとして活躍されております。最近だと、テレビコマーシャルで加藤あいと短歌共演していた歌人さん、と言えば、思い当たる方も多いかも知れません。

「ショートソング」、つまり「短歌」と題された初小説のテーマはもちろん短歌。昨年まで携帯サイトで連載されていた「短歌なふたり」という小説の書籍化です。短歌好きな人たちが集う「結社」と呼ばれるサークルを舞台に、自分の才能に限界を感じつつあるかつての「ホープ」と、自分の才能にまだ気付いていない内気な「チェリーボーイ」の交流と心情を、短歌を絡めながら交互に描く、という珍しいスタイルの青春小説です。

ストーリー自体も面白いですが、小説の中に織り込まれた、100首以上の短歌が秀逸。枡野氏自身の作品はもちろん、古今の歌人の作品や、枡野氏のブログ「かんたん短歌」に投稿された歌などが使用されています。でもそれぞれ、実際にその登場人物が詠んだかのように、心の動きに上手にシンクロされていて面白い。ちょうど映画や舞台で使われる、質のいいBGMのように効果的に挿入されます。


こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう(枡野浩一)

気づくとは傷つくことだ 刺青のごとく言葉を胸に刻んで(枡野浩一)

さわるべきところではなくさわりたいところばかりをさわってしまう(枡野浩一)

土砂降りの夜のメールでとんでいく 僕という字は下僕の僕だ(佐々木あらら)

もう恋ができないようにした猫と暮らしています 元気でいます(英田柚有子)

だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし (宇都宮敦)


五・七・五・七・七。一千年以上も前から続くこの五句体リズムは、なんでこんなに心地よくボクらの胸に響くのでしょう。スコットランド人のバグパイプや、アフリカの人のドラムの音色のように、日本人に刻み込まれたDNAのリズムなのかもしれません。

つうことで、なんか自分にも作れそうな気がして、多摩川べりで指を折ってみたりしたのですが、なかなかどうして難しいのです。当たり前か。

やれるかもこれならボクにもできるかも ウソウソちょっと言ってみただけ(ハチ)

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