
- アーティスト: 羽毛田丈史, solaya, 松岡モトキ, 江崎とし子, 小林夏海, 桜井和寿, 西田恵美, 中孝介, 韓雪
- 出版社/メーカー: ERJ
- 発売日: 2006/10/11
- メディア: CD
45日目。「日本語にはあるけど、英語にはない表現」ってのは結構たくさんありますが、海外生活をしていた間に「これもないんかい!」って驚いた言葉のひとつが「懐かしい」。似たようなニュアンスの単語がないことはないですが、日本語の「懐かしい」と同義な言葉は見当たらず、例えば「チョーなつかしー!この写真!」って言いたい時には、「ジーザスッ!この写真は私に昔のことを思い出させます!」などという、なんとも感情移入のできない表現になります。そしてこの場合の「チョーなつかしー!」に相当する単語は、「ジーザスッ!」になるワケです。
多分ですが、「懐かしい」という感情は複雑すぎて、英語ではひとつの単語にまとめることができなかったんでしょうな。「楽しい」や「悲しい」って、かなりグローバルな感情ですが、「懐かしい」は、何に感じるのかは人それぞれだし、「懐かしい」と思った時に心に浮かぶのは限りなくパーソナルな景色です。それをあえて言葉にするのなら、英語では「ジーザスッ!」くらいしかねえよ、ってことなんでしょう。
前置きが長くなりましたが、本日、中孝介のミニアルバム「なつかしゃのシマ」がリリースされました。中(あたり)くんは奄美大島出身の26歳。島唄をベースにしたポップスを歌っている唄者(うたしゃ)です。前回にも、前々回にも、前々々回にも紹介しているので、詳しいプロフィールは省きます。
今回のアルバムのテーマは、その英語には訳せない言葉である「なつかしい」。タイトルになった「なつかしゃ」というのは奄美の方言で、「懐かしい」という意味とともに、何か美しいモノが心の琴線に触れた時に、「いいねぇ~」みたいな感じで「なつかしゃや~」と使うらしいです。彼はデビュー当時から、「ボクは『なつかしゃ』の気持ちを歌っていきます」とことあるごとに語っていたほどで、言ってみれば彼のメインテーマとなる言葉。
インディーズ時代から歌っていた名曲「家路」の新バージョンや、ミスチルの「手紙」のカバーなどが入っていますが、特筆すべきは最後におさめられたタイトルチューンの「なつかしゃ」。「家路」と同じ、江崎とし子氏の書き下ろし曲ですが、奄美に帰り、夕暮れの海に佇みながら、その当たり前の風景に「なつかしゃや~」と呟く中くんの姿を、水彩画で描きとめたような、実に雰囲気のある曲です。
まあ欲を言えば、ミニアルバムとはいえ、全曲同じトーンの歌ばかりだったので、もうちょっとクセのある曲も聴きたかったかな。声がストレートな分だけ、多少毒気のある楽曲のほうが、この人には似合うような気がします。中島みゆきの昔の歌とかカバーすると、結構ハマる感じがする。
とは言え、この奄美地方の島唄独特の、男性のファルセットーネ。そして詩情と郷愁をそそる、グイン。さらに素直で伸びのある歌声。この人の唄から呼び起こされる感情を、日本の南の島の人たちは「なつかしゃ」って言うんだよ、ってアメリカ人に教えてあげたいですな。 きっと「ジーザスッ!」って言うと思う。