20日目。音楽だけに限らない話ですが、時代の移り変わりってのは光陰矢の如しで、行き交う音楽もまた旅人なのです。ほんの20年前まではビニール盤のレコードで親しんできた音楽が、いつしかCDになり、気づくと昨今は拡張子のついた「データ」とやらになっていたりします。関係ないけど、山口百恵が「夜は〜33の〜回転〜扉〜」としなやかに歌ってたあの「33」なんてのは、諸行無常の響きがありますね。あと、世の中がレコードからCDに移行してた時期、LPを入れていた棚のサイズに合わせるため、CDは変な長細いボックスに入っていましたが、あれも今想へば、ただ春の夜の夢の如しです。なんで古文? いやなんとなく。
ナールズ・バークレイという新人ユニットのデビューシングル「Crazy」は、今年の春、まだCDもリリースしていないのに、ダウンロードの得点だけで全英ナンバーワンを獲得しました。去年デビューしたイギリスの「Arctic Monkeys」なんかも、デビュー前にネットで人気を集めていたし、なんか「CDを出す=デビューする」っていう図式がもうすでに崩れ始めていますね。
ナールズ・バークレイは、DJのデンジャー・マウスと、ラップシンガーのシー・ローの二人組ユニットで、デンジャーはGorillazのセカンドアルバム「Damon Days」のプロデューサーだった人。前述の「Crazy」は全英9週連続の1位をキープするほどの大ヒットになり、鳴り物入りで先月ドロップされたファースト・アルバムがこの「St. Elsewhere」。
音は、ちょっとレトロでサイケなソウルをベースに、邪魔にならないほどのセンスのいいエレクトロニカを被せた感じ。確かにGorillazの音にも通じるものがあるし、最近でいうと、アウトキャストなんかのやってる音楽にも近いでしょうか。でも、底抜けに明るいアウトキャストのお祭りソングに比べると、ナールズ・バークレイの曲は、どこかしら精神的な暗さを孕んでいて、アメリカのユニットなのに、先にイギリスで火がついたのも、なるほど、うなづけます。
例えばこの「Crazy」のPV。まるで悪夢のように美しいロールシャッハ・テスト。そしてそれに被さる「お前は自分を分かってるつもりか? ワハハハ! 本当にそれが自分だと思っちゃってんのかよー!?」という、挑発的かつ不吉なリリック。うーん、好きかも。
今年の夏にはフジロックにも参戦予定だとか。この人気も、名声も、ひとえに風の前の塵に同じ。多分そんなことはとっくに達観している感じの、新人ユニットです。
Title: ‘Crazy’
Album: “St Elsewhere”
Artist: Gnarls Barkley