259日目。先日遅い夏休みをいただきタイまで行ってきました。タイを訪れるのは3度目、22年ぶり。前回(1991年)に訪れた時、バンコクは街中が排ガスと悪臭に覆われ、道路は大渋滞とクラクションの波で揺れ、無法者のトゥクトゥクがものすごいスピードで細道を駆け抜け、その脇には物乞いがいたるところにねぐらを構えているという、なんというか「ザ・第三世界」のイメージだったのですが、今回22年ぶりに訪ねてみると、その変貌っぷりにビックリ。当時はなかった近代的な高架鉄道や地下鉄が張り巡らされ、トゥクトゥクの代わりにカラフルなタクシーが街を彩り、シャレたデザインの高層マンションやショッピングモールがあちこちに立ち並んでいるのです。22年。変わるなというほうが無理なほど、長い時間が過ぎたことを改めて実感し、残念なような、ホッとしたような、不思議なキモチになったのです。
今回の旅行中、バンコク在住の友人から「チャオプラヤー河からボートに乗って行く週末の新しいナイトマーケットが楽しいよ」と教えてもらい、「ナイトマーケット」というその響きから、怪しく危険かつ魅惑的な夜市を想像して、ドキドキしながら行ってみると、観覧車やキャバレーなどを併設したピカピカの商業施設に、露店が整然と並んでいて、まるでお台場か木更津アウトレットのよう。イルミネーションに飾られたオシャレなオープンパブでタイビールを飲みながら、「いやコレはコレでいいんだろうけど、オレが知ってるタイっていう国はさ〜」などと、連れの友人にないものねだりを愚痴っていると、生バンドの演奏が始まり、唐突に懐かしい曲が流れ始めました。
22年前のバンコクで、ボクはこの歌を耳にし、その時アテンドしてくれていたタイの友人に「これ、なんの曲だっけ?」と尋ねると、「グレン・フライの『The One You Love』。タイではポピュラーな歌なんだ」と教えてくれました。その後、親切な彼はその曲が入ったカセットテープをボクにくれ、タイを旅行しているあいだ、ボクはウォークマンで繰り返しこの曲を聴いていたものでした。
元イーグルスのグレン・フライがソロでこの曲をリリースしたのは1982年。91年の当時でさえ、ちょっと懐メロチックな歌だったはずですが、初めて訪れた東南アジアの、匂い立つ油絵のような風景と、この曲の持つ過度なノスタルジアが妙にマッチして、フライさんには大変申し訳ないのですが、ボクにとってこの歌は、貧しく汚れた、でも逞しくもしたたかな、バンコクという街のテーマソングになったのです。
あんなに繰り返し聴いていたのに、今回ナイトマーケットで偶然に耳にするまで、すっかり忘れてしまっていた歌。22年。「変わっちゃったのはどっちだろうね?」と、いたずらっ子の瞳で笑う、異国の旧友に出くわしたような、そんな不思議なキモチになったのです。