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【無人島3日目】下田昌克 “PRIVATE WORLD”

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PRIVATE WORLD

PRIVATE WORLD

  • 作者: 下田 昌克
  • 出版社/メーカー: 山と溪谷社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 単行本


3日目。先月ボクの友人(男・24)が南米に旅立ちました。仕事を辞め、貯金をすべておろして、金が尽きるまで続ける無期限ひとり旅だそうです。現在はブラジルのサルバドールとかいう街にいて、先日こんなメールを送ってきました。

「サルバドールでは子供からジジババまで、みんな同じ音楽を聴いています。火曜の夜は毎週音楽祭みたいなのがあるんですが、教会の階段が客席になって、踊り場にサンバやサルサのバンドが出てきます。日本だと音楽は個人的で、イヤホンや自分の部屋のスピーカーに限定されがちですが、ここではみんなが、歩きながら、働きながら、本を読みながら、笑いながら、心の中で地元の音楽を奏でているようです。なんというかすごくうれしくなります。」

いいなあと。そのサルバドールって街もそうなんですが、そういう風に見知らぬ国の街角で、何気ない景色に心を動かされる旅ってのが、いいなあと。ボクもちょうど彼くらいの年に、同じく会社を辞めて、海外に長期滞在した経験があるんで、このメールで彼が伝えようとしている感情の「質」みたいなものが、なんだかよく分かるんです。それは、夢でみた風景を説明するときみたいに、ちぎれちぎれの記憶をつなぎ合わせて、言葉にすればするほどどんどん離れて行ってしまうような、もどかしいコラージュのような感情です。



そんな気持ちを、上手にコラージュにするとこういう風になる、っていうお手本みたいな本がコレ。1994年、仕事を辞めて現金100万円だけ持って、神戸から中国行きの船に乗り込んだ26歳の青年が、「中国で北京ダックを食べて、そのあと香港でも行っておいしいものたくさん食べて、1ヶ月くらい思い切り遊んで、百万円使いきってこようと思ってでかけた」のに、そのまま中国→チベット→ネパール→インド→ヨーロッパと、2年近く世界中を渡り歩き、その間に描き続けた似顔絵と、写真と日記をコラージュにして、1冊の本にまとめたのがこの「PRIVATE WORLD」です。

著者は下田昌克氏という絵描きさんで、最近だと雑誌「SWITCH」の最新号で、ユーミンと元ちとせのインタビュー記事のイラストとコラージュなんかを手掛けていました。彼の描く似顔絵は、ペンシルを使った独特な色使いで、その絵の中には包み込むような優しさと、ほんの一握りの狂気があります。例えるならゴッホとペーター佐藤を足して2で割った感じ。分かりづれえか。とにかくボクはスゴく好きです。

上海、デリー、カトマンズ、ボンベイ、ロンドン、バルセロナ。各地で知り合ったりすれ違ったりした人たちのポートレイトを鮮やかに紙に描きおろし、時にはそれを代価として、食事や宿を提供してもらう。束の間の友情と別離。初めて出くわす景色への畏怖と憧憬。そして初めて出会う自分。それらのコラージュ。

「帰らなきゃいけない理由も予定も何もなかった。やらなきゃいけないことなんて何もない毎日。時間だけがたくさんあった。何もしなくていいとき、僕は絵を描いていた。紙や糊や、ペンやハサミを買ってきて、何か作っていた。何もしなくてもいいとき、僕は絵を描くんだ。知らなかった。」(本文抜粋・カトマンズの日記より)

沢木耕太郎の「深夜特急」や村上春樹の「遠い太鼓」など、巧みな文章で海外旅行の醍醐味を味わわせてくれる本は数多とありますが、「PRIVATE WORLD」は視覚を通して旅の匂いを嗅がせてくれる、珍しい本です。オレもこういう風に残しておけばよかった。まあ、できるかできないかが、大きな違いなんだろうけどね。

「ここにいると個性は、生まれながらにしてもっているもので、誇示したり、新しく作り出すものではなく、大事に育てていくものなんだな、と感じます。」

これは下田昌克氏の言葉ではなく、前述のボクの友人のメールの締めくくり。絵も文章も上手には書けない彼の、それはそれで、きれいな感情のコラージュです。


下田昌克オフィシャルホームページ

http://www.701-creative.com/shimoda/

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