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【無人島188日目】Jonny Cash 『Hurt』

投稿日:2009年4月22日 更新日:

「American IV: The Man Comes Around」リンクが見つかりませんでした。: (WP Applink)

188日目。昨日あたりからYouTubeで話題になっている、歌の上手なイギリスのオバちゃん。もうみなさんはご覧になりましたでしょうか? ホントに素晴らしいので、ぜひ一度こちらからご視聴してみてください。そもそも何の話?って人のために簡単に紹介しておくと、イギリスで先週末に放送された『Britains Got Talent』というスタ誕的(←年バレ)な番組で、スーザン・ボイルさんという47歳の、ご風体があまり麗しいとは言い難いオバちゃんがステージに現れ、「ミュージカル女優のエレイン・ペイジみたいになりたい」などと自己紹介をしていた時は審査員も観客も冷笑していたのですが、歌い始めたら彼女のものすごい歌唱力に会場全体が唖然。最後はスタンディング・オーベーションになり大絶賛された、というお話。YouTubeでは3,000万回以上視聴され、放送からまだ2日しか経っていないのに、ファンサイトが立ち上がったり、レコーディング契約の話が持ち上がったりと、まさにシンデレラ・ストーリーなのです。

もちろんその声と表現力も素晴らしいのですが、何より見事だったと思うのはその選曲。ミュージカル『レ・ミゼラブル』の中の有名な楽曲『I Dreamed A Dream』だったのですが、教会でボランティア活動をしている無職で独身で、生まれてから一度もキスをしたことのないという、風采のあがらない中年女性が、「こんなはずじゃなかった こんな地獄で暮らすとは」と歌うその姿は、まるで彼女自身の嘆きのようで、聴く者の胸をダイレクトに突くのです。

歌ったのがこの歌でなければ、例えばありきたりなラブソングとかだったなら、これほどの話題にはならなかったかも知れません。自分の立場やルックスやバックグラウンドを踏まえた上での完璧な選曲。歌とはそもそも、こういうものではなかったのかと、今更ながらに気づかされるほどの感動です。もちろん選んだのは彼女だろうし、計算だとすればそのセンスを、偶然だとすればその強運を称えたいと思うのです。

その時にその人が歌うからこそ、意味のある曲。歌と歌い手のガチンコ勝負とも言える選曲の妙。今日はまったく別の歌ですが、そんなことを考える時、ボクがまっさきに思い浮かべるこの歌を紹介します。

ジョニー・キャッシュ(Jonny Cash)は、1932年生まれのアメリカ人カントリー・シンガー。貧しい家に育ち、家族の愛にも恵まれず、徴兵され、除隊後歌手になり、一時は成功するもドラッグで逮捕され、離婚し、また歌手として復活し、という波瀾万丈な人生を送った人で、05年に公開された『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』という映画は、彼の人生を題材にしたストーリーになっています。

ご本人は03年に71歳で他界されましたが、02年に発表された彼の最後のアルバム『American IV: The Man Comes Around』に収録された『Hurt』という曲があります。彼の生涯を映しきったPVも秀逸なので、つけておきましょう。

今日自分を傷つけてみた
まだ感覚があるのか確かめるために
痛みに意識を向ける
たったひとつのリアル
針で穴を開ける
懐かしい痛みが
すべてを殺していく
でもまだ覚えている
友よ
俺は何になり得たのか
みんな去ってしまった
そして最後に手に入れる
汚れた自分だけの帝国を
君をがっかりさせるだろう
君を傷つけてしまうだろう

この曲はメタルバンド・Nine Inch Nailsのカバーなのですが、遥かに原曲よりも素晴らしいです。それは、ジョニー・キャッシュという男の歩んできた人生と、もうすぐ終焉を迎える70歳という年齢があったからこそであり、その時に「今この曲を歌いたい」と思ったジョニーの選曲眼の勝利だと思うのです。

アイドルたちが歌うキャンディーソングも、それはそれで価値はあると思います。でもそもそも歌とは、もしくは表現をするとは、自分自身の内なるものがあってからこそなのでしょう。例え自分で作った作品ではないにせよ、そういうものを外さなければ、人の琴線をガツンガツンに揺さぶることができる。スーザン・ボイルもジョニー・キャッシュも、その最高の例だと思うのです。

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