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【無人島181日目】Antony & The Johnsons “The Crying Light”

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ザ・クライング・ライト

ザ・クライング・ライト

  • アーティスト:アントニー&ザ・ジョンソンズ
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン・レコード
  • 発売日: 2009/01/23
  • メディア: CD

181日目。100歳を過ぎても尚、現役として活躍する「大野一雄」という舞踏家をご存知でしょうか? 1907年に生誕し、60年代には舞踏家仲間の土方巽と一緒に、「暗黒舞踏」という前衛的でアングラなスタイルを確立し、日本の「舞踏」を「BUTOH」として海外に広めた芸術家です。一昨年100歳の誕生日に『百花繚乱』というタイトルの舞台を上演し、話題になりました。ボクは映像で一部だけしか見ていないのですが、車椅子に座ったまま、白塗りの顔を空に向けて、舞い落ちる花びらを慈しむように踊るその姿は、「踊り」というよりはむしろ「祈り」のようで、舞踏というジャンルに関して全く知識を持たないボクにでさえ、なにかこみ上げるような感動を与えてくれます。

そんな大野一雄氏のポートレイトを、ジャケットに配したアルバムが今月リリースされました。69日目に紹介した「Antony & The Johnsons」のニューアルバム『The Crying Light』。ジャケットは、写真家・池上直哉が77年に撮影した大野氏のモノクロ・ポートレイト。77年ということは、この時点ですでに古稀オーバーの年齢だったはずのその横顔は、年齢や性別、はたまた生死といったものさえをも、すでに軽々と超越されたような、神々しいまでの生々しさを秘めておられます。
この写真をジャケットに選んだのは、ボーカルのアントニー・ヘガティ氏。大野一雄氏を「芸術家としての私にとって、親」というまで心酔するアントニーは、このアルバム自体を「大野氏に捧ぐ」としています。
05年の前作『I Am A Bird Now』では、ルー・リード、ルーファス・ウェインライト、ボーイ・ジョージらをゲストに迎え、英国最高峰のマーキュリー・プライズを受賞しましたが、今回のアルバムではビョークの作品などに参加していた作曲家兼ピアニストのニコ・マーリー(Nico Muhly)にオーケストラのアレンジを依頼。ゲイであることの「悲しみ」や「孤独」をテーマにしていた前作とは違い、今作では壮大で流麗なストリングスをバックに、もっと本質的で根本的な人間の「性(さが)」といったものを、時にソウルフルに、時に囁くように、歌い上げております。

別の場所に行きたい
そこに平和があるなら
他の世界で生きたい
ここはもうすぐ終わる
見果てぬ夢がある
光はまだ見えない
別の場所に行きたい
どこか違う場所へ
海が恋しくなるだろう
雪が恋しくなるだろう
蜂が恋しくなるだろう
生きとし生けるもの
木々が恋しくなるだろう
太陽が恋しくなるだろう
動物が恋しくなるだろう
あなたたちみんなが
でも別の場所に行きたい
そこに平和があるなら
でも他の世界で生きたい
ここはもうすぐ終わる
鳥が恋しくなるだろう
彼らの歌声が
風が恋しくなるだろう
彼らの接吻が
人はみんなひとりだ。どうせ、いつだって孤独なのだ。そう突き放しながらも、寂しい人にそっと寄り添ってくれる体温のあたたかみが、彼の歌にはあります。それは、歩けなくなっても立てなくなっても「踊らずにはいられない」大野一雄氏のパフォーマンスにも似た、理屈ではなく衝動的な、やむにやまれぬ『愛』の歌なのです。

-CD

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