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【無人島182日目】村上春樹 “はじめての文学”

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はじめての文学 村上春樹 (はじめての文学)

はじめての文学 村上春樹 (はじめての文学)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12/06
  • メディア: 単行本

182日目。今日、私がみなさんに伝えたいことはひとつです。それは、私たちの誰もが、国籍や人種や宗教の違いを超えて、人間であるということです。固い壁、すなわちシステムというものに直面している、脆い卵だということです。どう見たって、私たちには勝ち目がありません。壁はあまりにも高く、強く、そして冷たい。私たちに勝てる見込みがあるとすれば、互いの個性を、つまり自分自身も他者も互いにたったひとりのかけがえのない精神を持つ者であると認め合い、互いのこころを結べば温かさを得られると信じることによってのみ、それは可能になるのです。

上の文章は、今月イスラエルの文学賞である「エルサレム賞」を受賞した村上春樹氏の、受賞スピーチの一部です。今週の『週刊朝日』に全文の翻訳が掲載されておりました。ボクは相当の村上春樹ファンなので、かなりひいき目があるかも知れませんが、それを差し引いても素晴らしいスピーチでした。
原文はもちろん英語だったワケですが、英語でも日本語でもアラビア語でもヘブライ語でも、どんな言語に直しても平等に伝わる「常識的」なメッセージです。よく「常識」は「知識」という言葉と混合されがちですが、「常識」という言葉は、国や文化や年齢や性別が違っても、人間として分かち合える最低限の「共感」を指すのだとボクは思います。そういう意味で、この村上氏のスピーチは実に常識的だと思うのです。
「壁」「卵」「システム」という分かりやすい比喩を用いて、博士然とした目線ではなく、同じ時間に同じ道の上に立つひとりの人間として、まるで隣にいる人に話しかけるような気さくさで、優しく言葉を投げかけてくれています。ちょうど村上氏の上質な短編小説を読んでいるかのような心地良さとユーモアと、そしてハッとさせてくれる発見があります。最後のくだりでボクは、思わず涙ぐみそうにすらなりました。ネットでもいろいろなサイトで翻訳が載っているので、ぜひみなさんもご一読いただければと。原文でお読みになりたい方はこちらに掲載されています。
つうことで、今日は村上春樹の本をご紹介しようと思うのですが、過去の作品をどれかひとつとかになると、どれもこれも思い入れが強すぎて選びきれないので、まだ村上春樹を読んだことのない人にオススメするという観点から、若年層向けに文芸春秋が出している『はじめての文学』シリーズの、村上春樹編をご紹介します。
『はじめての文学』は12巻シリーズで、他には浅田次郎、よしもとばなな、宮本輝、宮部みゆきなど、ボク好みの作家がラインナップされております。このシリーズのテーマは、初めて純文学を手にする少年少女のために、各作家が自作の短編の中から『まずはこれから読んでほしい』というのを自薦する、という企画で、フォントは大きめ、難しい漢字にはルビをふるという、アクセシビリティの高い仕様になっています。ちなみに村上氏の選んだ短編は、以下の17編です。
シドニーのグリーン・ストリート
カンガルー日和

とんがり焼きの盛衰
かいつぶり
踊る小人
鉛筆削り
タイム・マシーン
ドーナツ化
ことわざ
牛乳
インド屋さん
もしょもしょ
真っ赤な芥子
緑色の獣
沈黙
かえるくん、東京を救う
個人的には『沈黙』が大好きです。この15年くらいの間に何度も繰り返し読んでいます。『はじめての文学』のあとがきで、村上氏自身が『沈黙』について「同じような心的状況を経験」し、「かなり特殊」で「個人的な意味合いを持った」作品だと語っていましたが、なるほど『沈黙』も「壁」と「システム」と「卵」の話なのでした。そして『沈黙』では最後に「卵」が勝つのです。ボクはきっと、そこが好きで何度も読み返しているのかも知れません。

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