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【無人島243日目】Glen Hansard 『Rhythm and Repose』

投稿日:2012年11月13日 更新日:

243日目。ふと見上げると街路樹にイルミネーションが飾られていたりして、もう今年もそんな時期なのかと、年々短くなっていく1年にうっすらと恐怖を感じる季節となりました。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。今年5月の更新を最後に、このブログをうっかりすっかりほったらかしにしておりましたが、ボクは元気です。この数ヶ月間、何をしとったのかと言うと、久々に海外旅行をしたり、懲りずにDJに挑戦したり、おしゃれカフェのお手伝いをしたり、友達と海で酒を鯨飲したりと、四十路の夏をエンジョイしておりました。最近このブログを読んでくださっている方々から「全然更新してないよね!」という全く以てザッツイットなご指摘をいただき、はたと我に返った次第です。遅くなりましたが、ただいま、無人島

さて半年ぶりのブログ更新で何を紹介しようか迷いに迷ったのですが、今回はアイルランドの伝承歌『The Parting Glass』を取り上げてみます。タイトルを直訳すると「別離の杯(さかずき)」。仲間とのお別れの歌で、よくお葬式や宴の席で歌われるのだそうです。色々なミュージシャンが歌っていますが、最近だとイギリスで大ヒットをかました「Ed Sheeran」というシンガーソングライターが、デビューアルバム『+』にシークレット・トラックとしてこの歌を収録していました。

下につけた動画はアイルランド出身のシンガーソングライター・Glen Hansard(グレン・ハンサード)がアカペラで歌ったバージョン。グレンさんは『The Frames』というバンドのリードシンガー兼ギターリストかつ、『The Swell Season』というフォークデュオの片割れかつ、91年の映画『The Commitments』や07年の『ONCE ダブリンの街角で』などに出演した役者さんでもある、アイルランドでは有名なミュージシャンです。

そのグレンさんが今年の6月に、満を持してオリジナル・ソロ・アルバム『Rhythm and Repose』をリリース。そのアルバムがあまりにも素晴らしかったので、今回はそれを紹介しようとグレンさんのあれこれをウェブで調べていたら、この『The Parting Glass』の動画を見つけてしまい、すっかり釘付けになってしまったのです。

アナログカメラのファインダーの向こう、伏し目がちで少し酔った感じの男が、投げつけるように歌う『The Parting Glass』は、アイルランドの男たちがこの歌をどんな風に愛し、歌い継いできたのかが、ビンビンと伝わってくる悲しくも強い独唱です。

これまで稼いだきた金は
仲間のために使い果たした
やらかしてきた悪事はぜんぶ
結局自分に返ってきちまった
バカでやらかしてしまったことは
もう今じゃ思い出すこともできない
頼むよ 別離の酒をついでくれ
じゃあな おやすみ 楽しかったよ

もう少し金があって
ゆっくり話せる時間があったら
俺を惑わしつづけた
かわいいあの子の話がしたい
バラ色の頬 ルビーの唇
俺の心はまだ囚われたまま
頼むよ 最後の酒をついでくれ
じゃあな おやすみ 楽しかったよ

つるんだ仲間はみんな
別れを惜しんでくれる
かつての恋人はみんな
あともう一日とせがんでくれる
でもこれが運命ってやつなのか
俺は一人で行かなくちゃいけない
気取られないよう立ち上がり
そっと告げよう
じゃあな おやすみ 楽しかったよ

遠くに聞こえる飛行機の音。最後に見せる照れたような笑顔。どこまでが演出でとこまでが偶然なのか分かりませんが、いずれにせよアーティストとしての高濃度なセンスを感じさせます。残念ながらソロ・アルバム『Rhythm and Repose』にはこの『The Parting Glass』は収録されておりませんが、冬空を覆う雲のように、厚く重く湿り気のある感性を宿した歌がビッチリと詰まった名盤です。必聴。

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