121日目。先日、お能を観てきました。お能なんて、子供のころ課外授業でちょろっと観たことがあるくらいで、それ以来はまったくもって縁のない世界だったのですが、チケットを頂戴したので、たまには知らん分野のゲージツに触れるのもよかろうかと。まあ、ボクもいい加減いい大人なんだし、100%わからんにせよ、ちったーポンと膝を打つくらいの造詣の深さが、そろそろ身に付いてきてるんじゃね? などと高を括っていたのですが、これがまたキレイさっぱり分かりませんでした。つうか、寝た。スヤスヤ寝た。全然ダメ。アイハブノー造詣アットオール。
閉幕と同時に目を覚まし、ふわ〜っと伸びをしながら「いや〜エンタテインメントは生き物やね〜」などと思った。アホです。でも、600年くらい前の日本人は、コレを観てワクワクドキドキしてたワケですやん? ボクにはどう聴いても、ボクを寝かしつけようとしているとしか思えなかった「謡」や「囃子」も、当時では大ヒットソングだったはずですやん? そう考えるとエンタテインメントっつうのは、当たり前ですが時代とともに移り変わっていて、現在ボクたちが聴いている音楽や映画なんかも、何十年何百年かしたら、「ワケわからん!」って言われる代物になるはずです。
時代の潮流に揉まれ、散り散りに消え去って行くものを、大切に守る。それは大事。現代のお能をバカにするつもりは毛頭ありません。わからんかったのは、ボクのノー造詣アットオールのせい。それと同じく、変わって行こうとする努力もやっぱり大事。古きモノをきちんと守る力と、新しいモノを生み出す力は、たぶん同質のものだと思う。スヤスヤ寝ながら、そんなことを考えておったのです。(←うそ)
今年の、同時多発テロ・メモリアルデーに発売された、七尾旅人の4枚目のアルバム「911FANTASIA」は、そんな「新しいモノを生み出す力」によって作られた作品。前回のアルバムから、約4年半という長いスパンで制作された、なんと全32曲入りの3枚組で、トータル3時間の超大作です。
七尾旅人。ななおたびと、と読みます。79年生まれのシンガーソングライターで、10代のころから音楽活動を始め、98年に伊藤銀次プロデュースのシングル「オモヒデ・オーヴァ・ドライブ」でデビュー。現在までにアルバム4枚、シングル6枚と、数的には寡作ですが、リリースごとに毎回大きな反響を呼ぶ人で、石野卓球や空気公団、川本真琴や古明地洋哉などなど、一癖も二癖もあるミュージシャンのアルバムにも参加しております。
今回のアルバムの大きなテーマは、たぶん「反戦」。語りと歌が交互に入るストーリー構成になっていて、同時多発テロから50年経ったある日を設定に、旅人扮するおじいちゃんとその孫の会話を主軸として、同じ過ちを繰り返そうとしている日本と世界に、警鐘をならしておるのです、って書くと、なんだかものすごくつまらなそうですが、「たぶん」と書いたのはあんまり自信がなくて、このアルバムはそういう語りやすいテーマとかじゃなくて、もっととんでもなく新しく斬新なモノを包容しているのです。
おじいちゃんと孫の会話が、自然と歌に繋がって行く不思議な構成に、実際のニュース音声や街角のざわめき、子供たちのささやき声などを重ね、混沌と妄想の世界を突っ走ります。オペラでもあり、ソウルでもあり、スポークンワーズでもあり、エレクトロニカでもあるその新世界は、ワケのわからなさ加減で言えば、ボクの観たお能とほぼ同一ですが、決して飽きさせないめくるめく旅人ワールド。3時間ぶっ通しで聴き終わったあと、壮大な映画を観終わった後のような、疲労と放心と充実感が味わえます。
う〜ん、上手く言葉にできんな。ノー気の利いた語彙アットオール。とにかく聴いてみてください。まだ9月ですが、たぶんボク的に今年ナンバーワンのアルバムかと。