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【無人島144日目】Bruce Springsteen 『Magic』

投稿日:2008年2月13日 更新日:

144日目。うかうかしておったら早くも2月も半ばで、いつの間にやら2008年のグラミー賞が発表されておりました。今年の目玉は英国の問題児、エイミー・ワインハウスで、最優秀新人、最優秀楽曲、最優秀レコードの主要3部門を含む5冠に輝きました。このブログでは紹介しておりませんでしたが、彼女のアルバム『Back To Black』は、印象的にはメーシー・グレイのデビュー作のインパクトにも似た、大物感のある素晴らしいアルバムです。「お前にグラミーは似合わん!私生活を立て直してから出直せ!」などという厳しいご意見もあるようですが、この受賞を機にプライベートも上昇していければ何よりですな、ワイノさん。さてさて今回は、最優秀ロックパフォーマンスおよび、最優秀ロックソング賞を受賞した、この人のアルバムです。

02年に発表した『Rising』で、03年グラミー賞の最優秀ロックパフォーマンス、最優秀ロックソング、最優秀ロックアルバム賞、 04年のグラミーでは、Warren Zevonとのデュオで、最優秀デュオ&グループ・ロックパフォーマンス賞、05年にはベストアルバムに収録した『Code of Silence』で最優秀ロックパフォーマンス賞、その年にリリースしたアルバム『Devils & Dust』で06年の最優秀ロックパフォーマンス賞、通算21枚目にして、トラデュッショナル・ソングをまとめたアルバム『We Shall Overcome』で、07年の最優秀フォークアルバム賞と、もう毎年必ず何かしらのグラミー賞をもらっている「ボス」こと、ブルース・スプリングスティーンが、今年も獲りました。最新アルバム『Magic』からのシングル曲『Radio Nowhere』で、最優秀ロックパフォーマンス賞と最優秀ロックソング賞を受賞です。ついでに、エンニオ・モリコーネのトリビュート・アルバムでのパフォーマンスで、最優秀ロックインストルメンタル賞までもらっちゃってます。

なんだかもう、出せば賞がついてくる!みたいな大御所だし、紅白でしかお見かけしない演歌歌手にも似た風格すら感じるボス。でもボスのすげーところは、そんな周りからの評価にあぐらをかかず、几帳面かつコンスタントに作品をリリースし、ちっともクオリティを落とさずに走り続けているところでしょう。

73年にデビューして以来、数々の大ヒットを生み一時代を築いたボスも、御年58歳。近年は、911をモチーフにした『Rising』や、82年の問題作『Nebraska』の続編ともとれる『Devils & Dust』など、社会派かつ内省的な作品が多かったため、今回のアルバム『Magic』は、「原点回帰」をテーマにした、明るく軽快な、日本版オフィシャルサイト曰く「ハイ・エナジー・ロック・アルバム!」らしいです。どれどれ、ではアルバムタイトル曲の『Magic』を聴いてみましょうか。

暗っ! 真っ暗やんけ! 歌詞もすごいです。「道の向こう、太陽が沈んでいく。木々には死体がぶら下がっている。それがボクたちの未来だ」みたいな。どこがハイ・エナジーやねん。でも超好きです。

ビジュアル的には、星条旗をバックに立つ、マッチョでパワフルなロックシンガーなイメージの強いボスですが、彼の歌は実はどれもこれも、内省と絶望と徒労に満ちています。彼を一躍スターダムに押し上げた『Born In The U.S.A.』ですら、「死んだような町に生まれ/歩き始めるとすぐに蹴とばされ/終いにはうちのめされた犬のように/人生の半分を人目を盗んで生きるようになる/俺はそんなアメリカで生まれたんだ」という、出口のないブルーカラーのリアルを歌った歌でした。

『Magic』は確かにサウンド的には、アコースティックよりだった『Devils & Dust』に比べれば、明るく元気に響きますが、彼が描くモチーフは相変わらず暗い深淵です。「闇」「敵」「死者」「過ち」などという単語が溢れたリリックには、とても立派な賞を毎年もらっているウハウハな大御所のイメージはなく、58歳になってもなお、足枷をひきずる初老の男の姿があります。

奇術や手品はまやかしだから、「耳にするものを信じてはいけない/目にするものは尚のこと」。この曲の歌詞は、どんなに環境が変わろうとも、どこかそれを100%信じきれないボス自身のことなのかもしれません。そして、それが彼の最大の魅力なんだと思うのです。

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