BOOK

【無人島100日目】永沢光雄 “恋って苦しいんだよね”

投稿日:

恋って苦しいんだよね

恋って苦しいんだよね

  • 作者: 永沢 光雄
  • 出版社/メーカー: リトルモア
  • 発売日: 2007/01/26
  • メディア: 単行本

100日目。若い頃はいくら酒を飲んでも酔っ払わないので、周りの友達から有り難がられたり気の毒がられたりしていたのですが、ここ2〜3年ですっかりグダグダになってきて、最近は泥酔した上、いろいろやらかし feat. 翌朝ナニも覚えていない、という絵に描いたようなヨッパライ親父になりつつあります。仕事がカジュアルなので免れていますが、これでスーツだったら絶対に頭にネクタイ巻いているタイプだな、オレは。寿司折りぶらさげて千鳥足とかね。うーん。でもちょっといいかも、そういうのって楽しそう、って思っちゃう自分がなにより怖いです。



永沢光雄。96年にAV女優のインタビューを集めた本で脚光を集めたノンフィクション・ライターです。インタビューの名手と呼ばれ、著書も6冊ほど残しておりますが、昨年11月にアルコールによる肝機能障害のため亡くなりました。享年47歳。

無類の酒好き(つうかアル中)だったらしく、この死去されてから発刊された短編集『恋って苦しいんだよね』は、どれもこれも多分ご本人がモデルだと思われる「ヨッパライ」たちのグダグダなお話が26編ほど収められております。

著者のことは全く知識になく、友人から薦められるままに読んだのですが、この本はオモロイです。表現が鮮やかで、文章が美しい。どの話も、物事がニッチもサッチも行かなくなった男が、酒とセックスに逃げる、というかドップリ浸かってる生活の断片風景なのですが、ベタつかず陰気にならず、逆に無頼なすがすがしささえ覚える筆致。もう少し読んでみたかったと思わせるあたりで、バサッと幕を引く潔さも小気味良いです。


意識はずいぶんと前から戻っているのだが、瞼は開かず体も手足の指くらいしか動かない。だがそれがアルコールのせいだということは自明の理なので、病気か霊体験かなどと慌てることはなく静かに体を横たわらせる。そのうち、またひと眠りしてしまったようだ。目を覚ますと私は暗闇の中にいた。いつもなら隣室から襖の隙間を通して明かりが洩れ、時としてテレビを眺めている妻の笑い声が聞こえるのだが、今はそれがない。ただただ、真っ暗である。もしや自宅ではないのでは? 今度は体中の痺れが取れていたので私はベッドから起き上がった。四十肩の右手を痛みをこらえながら宙に遊ばせ、蛍光灯の紐を探り当てる。明かりが灯った。良かったのか、どうか、自分の部屋だった。(『黄金週間』書き出し)


酒を扱った小説という意味だけでなく、7日目に紹介した「失点・イン・ザ・パーク」の面白さにも似ています。文章的には町田康のリズムにも近いかな。自虐的でありながら、品があるというか。厭世的でありながら、愛情深いというか。分かりづらいか。ボク的にはかなりグッときました。

風邪のウィルスってのは日常の空気の中にあるから、風邪を引くのはウィルスのせいというより、自分の体調が弱ってるってことなんだよ、って話を聞いたことがありますが、酒で酔うってのもそれに似ていて、たくさん飲んでもしっかりしている時もあれば、ちょっと飲んだだけでグデングデンになったりもします。ネクタイ頭に巻いて、寿司折りぶらさげた千鳥足は、そうなるだけの理由を抱えているのかも知れません。なんだそれ? 言い訳。

-BOOK

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

no image

【無人島104日目】若杉公徳 “デトロイト・メタル・シティ”

デトロイト・メタル・シティ 1 (1) (ジェッツコミックス) 作者: 若杉 公徳 出版社/メーカー: 白泉社 発売日: 2006/05/29 メディア: コミック 104日目。得てして、その人が作る …

【無人島293日目】西川美和 『永い言い訳』

永い言い訳 293日目。「性善説」「性悪説」という言葉があります。「人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ!」と説いた孟子さんと、「人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ!」と説いた荀子さ …

【無人島281日目】西加奈子 『サラバ!』

サラバ! 上 281日目。子供の頃と成長した後とで、性格が全然違ちゃった!なんていう人は意外と多いのではないかと思うのですが、かくいうボクも幼少時は、人前で歌ったり踊ったりするのが大好きな、ナチュラル …

【無人島274日目】山田参助 『あれよ星屑』

あれよ星屑 1巻 (ビームコミックス) 274日目。週末、話題のディズニー映画『ベイマックス』を観てきました。『アナと雪の女王』が姉妹愛と女の子の憧れをテーマした映画だったのに比べ、『ベイマックス』は …

no image

【無人島151日目】朝倉かすみ “田村はまだか”

田村はまだか 作者: 朝倉 かすみ 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2008/02/21 メディア: ハードカバー 151日目。唐突ですが、「人を待つ姿」が好きです。待ち人フェチ。なんじゃそりゃ …