274日目。週末、話題のディズニー映画『ベイマックス』を観てきました。『アナと雪の女王』が姉妹愛と女の子の憧れをテーマした映画だったのに比べ、『ベイマックス』は兄弟愛と男の子のロマンを軸にした冒険活劇。アメリカと日本を融合させた無国籍な場面設定と、「癒し系ロボ」というキャラクターは実に現代的でしたが、緻密で美しい画面構成とストーリーの清廉さは、さすがディズニー。そして何よりベイマックスの愛らしさ! ベイマックス、超ほしい! 空飛んだり、ロケットパンチ出したりしなくていいから、ヨタヨタと仕事から帰ってきたオジサンを、そっと後ろから抱きしめてほしい。言わずとも疲れを察して、やさしく手当してほしい。そして眠るまで頭をナデナデしてほしいって、自分で書いてて相当キモいし、どんだけ弱ってんだ俺は?って話ですが、でもほしい。高齢者向けの介護ロボの開発は進んでいるようですが、疲れたサラリーマンを癒してくれるロボの発明もそろそろどうでしょう? って、俺は誰に話してるんでしょう?
『ベイマックス』のように、主人公が「少年」で、相棒が「体躯の大きいノンヒューマン」っていう図式は実に古典的で、『鉄人28号』や『ガンダム』などのロボットものから、『ハクション大魔王』や『オバQ』などのファンタジーものまで、日本のアニメでも鉄板の設定でございます。体が大きくて力持ちで様々な能力があり、でも心優しくて主人公にだけ従順な相棒というのは、男子特有の夢のシチュエーションなのかも知れません。
女の子が「コンパクト」や「杖」などの小さなアイテムを使って、自分の力でテクマクマヤコンするのに比べ、巨大で力ある者を手なずけて自分の思い通りに動かすという、なんとも他力本願的なソリューションを好む男子。女子からしてみれば、「行け!行け!ぼくらの鉄人28号〜」じゃなくて、お前が行けよ!って話ですよね。分かります。すんません。
で、今日はなんの紹介かと言うと、現在「コミックビーム」で連載中の『あれよ星屑』という漫画です。現在単行本が2巻まで発売中です。
舞台は敗戦直後の東京。復員してきたばかりの「門松」は、街で偶然元上官の「川島」に出会います。酒に溺れ無気力に生きている変わり果てた川島のことが放っておけず、門松は川島の側で暮らし始め、世話を焼きながらなにかと騒動を巻き起こすまでが1巻。2巻では時代が少し遡り、軍隊での二人の出会いと、どうして門松が川島を慕うようになったかのいきさつが描かれています。
インテリで繊細で、戦争で闇を抱えてしまった川島と、熊のような巨漢で粗雑だけれども、心優しく愛嬌がある門松。二人は「ヒロ」と「ベイマックス」のような密接なバディ関係ではありませんが、付かず離れずの距離を保ちながら川島を見守り続ける門松の忠実さは、男同士特有のロイヤリティを感じさせます。
時代描写も実に見事で、戦後間もない時期の、絶望と猥雑が混沌とした東京を微細に描き切っていて、まるで映画を見ているかのような鮮やかさ。作者はゲイ漫画出身という異色の肩書きを持つ山田参助氏。おいくつの方なのかは存じませんが、戦後文化に関する知識量だけでも驚きだし、画力とストーリーテリングも圧巻。まだ序盤ではありますが、多分この『あれよ星屑』という作品は、後世に語り継がれるべき傑作漫画になるだろうと、ボクは確信しています。
「ベイマックス」と「門松」のコモンセンスは『励まし』。ベイマックスが何度もヒロにあてて繰り返す「アー・ユー・サティスファイド・ウィズ・マイ・ケア?」という質問は、川島からなんども田舎に帰ることを勧められても「班長殿がもう少し元気になったらそうします」と繰り返し答える門松の台詞に似ています。両者とも、相手の強がりを読み切り、見返り無用で相手が本当に笑顔になってくれることだけに全力を尽くす。そういう励ましに男は一番弱いし、そして元来「男らしさ」とは、そういう種類の「優しさ」を指す言葉ではないのかと思うのです。