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【無人島281日目】西加奈子 『サラバ!』

投稿日:2015年8月3日 更新日:

281日目。子供の頃と成長した後とで、性格が全然違ちゃった!なんていう人は意外と多いのではないかと思うのですが、かくいうボクも幼少時は、人前で歌ったり踊ったりするのが大好きな、ナチュラルボーン・エンターテナーだったらしいです。今ではそんな片鱗(酔っ払った時以外は)まったくないワケですが、両親や親戚の話を聞くとすごい社交性のある子供だったとのこと。曰く、頼まれもしないのにみんなの前でモノマネ(ネタは欧陽菲菲か加トちゃんだったそう)をしていたとか、電車の中で知らない人と喋ってたとか、幼稚園で男女構わずにキスしまくってたとか、それって社交性?って感じのエピソードがボロボロでてきます。そして一番の驚きは、本人はまったくソレを覚えてないし、今では人前でモノマネなんて考えただけでケツがモゾモゾしちゃうような、真逆の大人に育ってしまったこと。人って不思議。

西加奈子氏著の長編小説『サラバ!』を読了いたしました。昨年(2014年)下期の「直木賞」受賞作かつ、本年度「本屋大賞」第2位とのことで、本屋で平積みされているのを何度も目にしていたのですが、上下巻で700ページを超える大作とのことで、ちょっと手を出しかねておったのです。ところが友人に薦められて遅まきながら読み始めてみると、まるでゴクゴク水を飲むような感覚で、スラスラとページが進み、あれよあれよと読み終えてしまいました。

物語は主人公の「歩(あゆむ)」の誕生(1977年)から、37歳の現在(2014年)になるまでの半生を、歩の一人称で綴った大河ドラマです。寡黙で我慢強いが存在が地味な父、「親」や「妻」である前に美しい「女」であることを捨てようとしない母、自意識過剰かつ破壊的な姉。そんな家族の中で、空気を読むことばかりに長け、中庸であることをモットーとして育つ歩。舞台は父親の海外赴任によって、イランから日本、そしてエジプトへと変遷します。

上巻では、少年時代の歩の目を通してみた、奇天烈家族のやりとりが面白おかしく描かれておりますが、下巻からは、青年になり、親元を離れて暮らしながらも、家族の呪縛から逃れられずに、七転八倒する歩の苦悩が物語の中心となっていきます。

家族とは? 性とは? 友情とは? 職業とは? 信仰とは? 人生とは? 悩みもがきながら歩は、自分は決して「中庸」でも「まとも」でもなかったのだと気づいていきます。誰よりもクールで常識的でノーマルだと思っていたのに、実は一番ダサくて自意識過剰でアブノーマルだった自分。上巻のネガのような下巻の展開は、すっかり主人公に感情移入していた読み手にとって驚きの騙し絵です。

しかしそれは歩が変わってしまったのではなく、変わらなすぎたことに起因しています。自分の道を極めてやがて出家を選ぶ父。「女」としての幸せを追い求めていく母。波乱万丈の末に自分の居場所を見つける姉。時を経るにつれそれぞれが何かを手にしていくのに比べ、傍観者を気取っていた歩だけが何も得られず取り残されていく。

あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ

姉の言葉に背中を押され、大人になった歩は少年時代の親友に会いに旅立ちます。エンディングは色々な解釈ができるのですが、この小説自体が壮大なラブストーリーだとすれば、切ないながらもハッピーエンドなのでしょう。

直木賞の講評で、審査員の浅田次郎氏が「言葉を自在に振り回すことのできる才能のおかげで少しも退屈しなかった」と述べておられましたが、まさに職人芸的なストーリーテリングで、まるで大ネタの落語を聴いていたような、不思議な読了感のある小説です。

子供の頃の自分と、今の自分。変わったところはたくさんあるけれど、それは「生まれ変わった」のではなく、幼生と成体で姿形が違うカエルのように、同じ血肉を持ちながら、長い季節を経て自ら「変えてきた」はず。それは『サラバ!』の登場人物ほど波乱万丈ではないにしろ、知らず知らずにボクがなにかを求め、なにかを紡いだ物語の結果なのかもしれません。無類の社交性(?)と引き換えに、一体なにを手にしてきたのかはサッパリわかりませんが、まだまだ未完成だと自認しているということは、まだまだ変わっていく余地があるということでしょうか。そうだと信じたいものです。人って不思議。

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