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【無人島76日目】村上春樹訳 “グレート・ギャツビー”

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グレート・ギャツビー

グレート・ギャツビー

  • 作者: 村上春樹, スコット フィッツジェラルド
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本


76日目。もし「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」って言われたら、どの本をあげます? ボクは選びきれないんでこんなタイトルのブログをやっているワケですが、多分その3冊のうちの1冊には、村上春樹の本を選ぶかもしれません。そのくらいボクは彼の小説(特に短編)が好き。一昨年上梓された「東京奇譚集」なんか、好き過ぎて、マジ鼻血出ました(←読んでて興奮した)。んで、その村上春樹自身が、最新訳本である「グレート・ギャツビー」のあとがきで、こんなことを言ってるんです。



もし「これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ」と言われたら、考えるまでもなく答えは決まっている。この『グレート・ギャツビー』と、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』と、レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』である。どれも僕の人生(読書家としての人生、作家としての人生)にとっては不可欠な小説だが、どうしても一冊だけにしろと言われたら、僕はやはり迷うことなく『グレート・ギャツビー』を選ぶ。もし『グレート・ギャツビー』という作品に巡り会わなかったら、僕はたぶん今とは違う小説を書いていたのではあるまいかという気がするほどである。(あとがきより)


そこまで言われたら、ファンとしては読むしかねえべ? つうことで読みました、村上春樹新訳の「グレート・ギャツビー」A.K.A.「華麗なるギャツビー」。初版が出たのが1925年。第一次世界大戦が終わり、アメリカでは大恐慌とそれに次ぐWW2が勃発する前の、ほんの短い穏やかな時代。日本で言うと大正14年で、同年代の作家でいうなら、芥川龍之介や内田百閒、江戸川乱歩なんかがそれにあたります。そう考えるとこの作品は、もう立派な「古典」といっていいでしょう。

物語の舞台はニューヨーク郊外のロングアイランド。豪奢な邸宅に住み、連日のように大勢の有名人を集めてパーティに明け暮れている男、ジェイ・ギャツビー。しかし、彼が何をしているのか、どこから来たのか、その素性を実は誰も知りません。たまたま彼の家の隣りに住むことになった主人公・ニックは、彼のその人柄と、隠された秘密に惹かれつつ、やがてギャツビーが「ある一つの望み」をかなえるために、自らを隠し、すべてを賭けていることを知ります。

正直、80年以上前のニューヨークの様子というのがまったく知識としてないし、絵としても浮かばないので、なかなかどうして前半は読み進めるのがかなり難しかったですが、後半、ギャツビーの思惑が露呈し、ニックがそれに協力し始めたあたりからはスラスラ読めました。生きていくことの悲哀や、どうしようもないことってのは、どうしようもなくある、という諦念のようなモノを核とした物語は、古典といえども、まったく色褪せない語り口でした。もちろんそれは、村上春樹の愛に溢れた翻訳があってこそのモノだと思いますが。

またロジカルかつ印象派的な比喩は、それ自体が村上春樹の世界で、恋人のお母さんに会ったら顔がそっくりだった時のような、オリジナルの出所を発見する楽しさもありました。

ただ、村上春樹がどのへんを指して「『グレート・ギャツビー』という作品に巡り会わなかったら、僕はたぶん今とは違う小説を書いていたのではあるまいかという気がする」と言ったのかまでは分かりませんでした。それを理解するには訳書を一度読んだくらいではダメだろうし、そもそもボクは村上春樹ではないのだ。やれやれ。(←春樹調)

でもこんな機会(好きな作家の大好きな本をその作家の訳で読む)がなかったら、きっと一生手に取ることもなかっただろうし、そういう点においては、実に贅沢な推薦本を読んだものである。アレ? どんどん文章が春樹調になっていく。別の視点からみれば、彼の作品はすべて、この『グレート・ギャツビー』のアンチテーゼなのだ、ということもできるのかも知れないけれども。意味不明。口調だけ、春樹。やれやれ。

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