290日目。ランチ時に外に出たら、頭上の高いところから、今年最初の蝉が鳴いておりました。日本人は蝉や鈴虫などの虫の音を、言語と同じ「左脳(言語脳)」で聞いていて、これらを「声」として認識しているのだと、ものの本で読んだことがあります。逆に西洋人は虫の声を、音楽と同じ「右脳(音楽脳)」で聞くので、ただの雑音としか捉えないのだそう。どちらが良い悪いの問題ではないのかもしれませんが、季節ごとに移ろう虫の音を、何か意味のある「言葉」として認識している日本人は、なんともロマンチックな民族だなあと思うのです。
閑さや岩にしみ入る蝉の声(芭蕉)。
閑話休題。「Suchmos」。「サッチモズ」ではなく「サチモス」と発音します。2013年に神奈川で結成された6人編成のバンドで、オフィシャルサイトの文言をそのまま引用すると「ROCK、JAZZ、HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされた」らしいのですが、彼らの音楽は、その全部でありつつ、そのどれにも当てはまらない、オリジナリティを兼ね備えております。なにはともあれ、まずは今年の1月にリリースしたEP『LOVE&VICE』からシングルカットされた『STAY TUNE』のPVをご覧ください。
超カッケー! ジャミロクワイをリスペクトした映像にもジンジンしますが、90年代に席巻したAcid Jazzの疾走感を保ちつつ、115日目に紹介したポストロックバンド「toe」や、214日目の「KIMONOS」のような、日本的な湿り気と潔さのあるグルーブ感が魅力です。演奏も超上手。特に5弦ベースでメロディアスかつ骨太に走りまくるベースラインに痺れます。
そして声。心地よい倍音をはらんだこの声の持ち主は、ボーカルのYONCE君。弱冠23歳でありながら、往年のカーティス・メイフィールドを彷彿とさせる、男の色気を感じさせます。ほとんどの楽曲の作詞もYONCE君が手がけているのだとか。最近いたるところでパワープレイ中の新曲『MINT』のPVもどうぞ。
「しゅー・はー・すー」や、「どうだい・きょうだい・はいかい・しないかい」など、長音符や韻を多用した、耳心地の良い言葉選びに、YONCE君のセンスの高さを感じます。『MINT』はすでにいろいろなメディアでランキング上位に上がってきており、今夏を代表するヒットチューンになるやもしれません。
冒頭の話に戻ると、日本人は虫の音だけでなく、雨の音や川の流れ、小鳥の鳴き声なども、「左脳(言語脳)」で捉えているのだそう。どんだけ左脳使ってんだよ!って話でもありますが、森羅万象が奏でる物音や鳴き声に耳を傾け、それを言葉や歌で表現しようとした結果が、短歌や俳句、能といった芸術に繋がっていったのでしょう。「ROCK、JAZZ、HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされた」彼らの音楽に感じる「それだけではない」感は、実はその日本人特有の「脳癖」に起因しているのかも知れません。
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声(芭蕉)