107日目。基本的に作品と、その作品を作った人の人間性というのはまったく別モノだと思います。良い人だから良い音楽が作れるとか、悪いヤツだから音楽も悪い、なんてことはない。ただ、あんまりにも強烈な人生を送っちゃってる人だと、やっぱその経験がどう作品に反映しているのか、色眼鏡をかけて見てしまうことも確か。最近だと38日目に紹介した中村中なんかもその例にあたるかもしれません。イヤな言い方をすれば、物見高い見せ物的な好奇の視線にさらされながら、それでもオーディエンスを納得させるものを作るというのは、普通のミュージシャンよりもはるかにハードルが高いはず。最近FMでよく耳にするこの人の歌もそうだと思うんです。
94年アフリカ中部のルワンダで起きた紛争は、フツ族とツチ族という、言語も国籍も肌の色も同じ民族同士が武力衝突し、120万人もが虐殺されました。この事件は「ホテル・ルワンダ」という映画にもなったので、知っている方も多いと思います。今回紹介するこのコルネイユさんは、16歳の時にこのルワンダ紛争に巻き込まれ、物陰に隠れていた自分の目の前で、家族全員が惨殺されたという経験の持ち主。ひとり生き残った彼は、知己を辿ってヨーロッパへ脱出。最近の「Invitation」誌のインタビューで、当時のことを振り返って「あの後、僕は事件を完全に無視して、まるで何も起きなかったかのように振る舞おうと決めたんだ。正気を保って生きてゆくには、他に方法がなかったんだよ」と語っています。
その後カナダに渡ったコルネイユさんは、子供のころから夢だったミュージシャンになるべく活動。フランス語圏のモントリオールで頭角を表し、02年にメジャーデビュー。フランス語のファースト・アルバムは、カナダ・フランス両国でプラチナ・アルバムとなります。続くセカンドもヒットし、現在までにトータルで170万枚の売り上げを記録。満を持して先月ドロップした初の英語アルバムがこの「The Birth Of Cornelius」です。
なんて話を先に聞いちゃったので、単細胞なボクは「きっと世界平和とか戦争反対を声高に歌った、社会派なアルバムなんやろうねー」などと勝手に想像してたんですが、これが全くそんなことのない、なんつうか幸せいっぱいな作品で、いい意味で期待を大きく外してくれました。コルネイユさんは新婚さんだとのことで、ほとんどの曲が愛する新妻に宛てた、愛情いっぱいのおのろけラブソング。往年のSEALを彷彿とさせる質の高いR&Bで、端正な歌声とキャッチーで美しいメロディラインが印象的です。ファースト・シングルになったこの「Too Much Of Everything」なんかは、実に日本人好みの佳曲だと思います。
とは言え、自分の過去に触れた曲も数曲入っていて、そのうちのひとつが「I’ll Never Call You Home Again」。ルワンダに対して「ボクはもう君を故郷だとは呼ばない」という絶縁を歌っています。同じ「Invitation」誌の記事で、この歌についてコルネイユさんはこんなことを言っています。「ボクの周囲には帰国を勧める人々が大勢いて、ルワンダの人々は僕の成功を知っているから、若者たちの励ましになるというんだ。でもそれで自分自身はどうなるのか? 家族の無念な想いは? 僕の記憶にはあの国の醜悪な姿が焼き付いていて、傷は癒えていない。だから二度と帰るつもりはないし、『お前を故郷とは呼べない』と宣言して、怒りをあらわにすることを自分に許してみたんだ」。
過去の作品では自分の生い立ちを全面に出し、「罪を許して、悲劇を乗り越え、強くポジティブに生き、成功を手にした男」という「虚像」を演じてきたというコルネイユさん。愛する人と出会い、本当の意味で強くなったことで、逆に弱みや怒りを表にあらわすことができるようになったんでしょう。目を背けていた過去に対して、「二度と帰るか!バカ!」と決別し、自分の鎧を解いてくれた一人の女性に向けて、感謝の気持ちと誠実な愛を歌う。戦争のトラウマから再生する、一人の男の歌声として聴けば、ある意味とても社会派なアルバムではあります。