133日目。最近すごく気になっているCMが、ヱビス・ザ・ホップ。ヱビスビールのテーマソングである♪タララリラ〜ン〜タラリラ〜ンという「第三の男」のメロディーを、公園のベンチでいろんなミュージシャンがセッションしているアレです。なんとも渋い人選かつおもろい顔合わせで、15秒という短い時間ではもったいないくらい、ドキドキするCMですな。記憶にあるだけでも、ゴンチチや高田蓮、曽我部恵一とASA-CHANG、はたまた小山田圭吾とヤン富田らが、一緒に♪タララリラ〜ンってやっておりました。なんともユルい感じで気持ちが良さそうだし、制作側の音楽とビールに対する愛情が伝わるステキなCMだと思います。
今年の夏、そのヱビス・ザ・ホップのCMで、白砂のビーチの上に置かれたベンチの上で、畠山美由紀と♪タララリラ〜ン〜をしていたのが、青柳拓次 from リトル・クリーチャーズ。「いかすバンド天国」でイカ天キングになってデビューしたのが、1990年。今でこそ珍しくありませんが、当時日本人のバンドで全曲英語詞ってのはかなり珍しかったし、しかもモノすごくチャーミングなアコースティック・サウンドで、大学生だったボクは、ボクよりも年下の青年がこのサウンドを作っとるのかと、愕然としたものでございます。
その後、青柳は海外留学などを経て、93年ごろから無国籍音楽団「ダブルフェイマス」のメンバーとしても活躍しつつ、KAMA AINA名義でソロ活動も開始。最近では「BOOKWARM」というポエトリーリーディングのイベントを開催したり、自分のレーベルを設立したりと、地味ではありますがなかなかどうしておもろい活動を着々と進めておるのです。
そして今月、初の「青柳拓次」名義で出したソロ・アルバムがこの「たであい」。今まで英語詞をメインとしてきた彼が、琴や笙や木魚、はたまた二胡や馬頭琴と言った古風な楽器を多用して、「日本」をテーマに制作した作品です。もちろん歌詞はすべて日本語で、最初に聴いたときは小野リサがうたう日本語の歌くらいの違和感がありましたが、そんなこともすぐに気にならなくなるくらい、「雰囲気」のあるアルバムです。
これ以上は削ぎ落とせないくらいに削ぎ落とした詞世界は、「日本」にこだわりながらも、どこか見知らぬ国の風景にも似た、疎外感と寂寥感のようなものを含んでいます。それは、故郷を持たない人がうたう望郷の歌のように、つまり「憧れ」のように、ボクには聴こえます。
南へ歩けば
北にぬける左へ走れば
右につづく女にふれれば
男にであう言葉にかくれた
しずけさを聴く帰ろう我が家へ
藍色こえて
「例えば、アメリカにはブルースというものがあって、ブラジルにはサウダージという言葉がある。じゃあ、自分が感じる、この何とも言えない気持ちというのをなんと表そうかと思ったときに、藍色という言葉に託そうと思った」とは、青柳の言葉。演歌でもJ-POPでもない、日本人としてのルーツ・ミュージック。それはきっと、人それぞれ別のモノであるのかも知れませんが、とにかく青柳が見つけた答えが、音ではなく「藍」という色であるところが、実にこの人らしいと思います。
デビューから17年。決して短くない時間を音楽に費やしてきた男が、とりあえずいま辿り着いた色であり音だとして聴くと、なんともステキな人生を歩いているじゃねえかと、多少うらやましくなってしまうようなアルバムです。なんとなく、ビールが飲みたくなってきました。♪タララリラ〜ン〜タラリラ〜ン。