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【無人島126日目】秦基博 “コントラスト”

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コントラスト

コントラスト

  • アーティスト: 秦基博
  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
  • 発売日: 2007/09/26
  • メディア: CD


126日目。一度耳にしただけで、「おおっ!こいつはスゲー!」って思うミュージシャンもいれば、最初はピンとこないのですが、何度か耳にしていくうちに、だんだん好きになっていく人っていうのもおります。単純にキャッチーか否か、って話なのかもしれませんが、ボクはどちらかというと後者のほうに興味があります。誰にでも好かれ、すぐに気持ちよくなれる簡単なドラッグのような音楽よりも、その味わいを理解するのに時間がかかっても、本当の意味で「酔わせて」くれる、地味で芳醇な酒のような曲のほうが、ボクは好きです。そちらのほうが、お手軽なドラッグよりも、遥かに気持ち良く、美味だと思うのです。



はじめて秦基博のライブを観たのは、昨年の夏ごろでした。渋谷のライブハウスで、中孝介のタイバンライブを観に行った際に、まだデビュー前の秦基博が登場し、数曲歌ったのでした。正直に言います。ダメだこりゃ、と思った(笑)。歌詞も、曲も、ルックスも、歌い方も、全部地味すぎ。声はいいっちゃいいんですが、このくらいの声と歌唱力のあるシンガー・ソングライターは山ほどいるし、やっぱスター性っつうのが大事だと思うわけよ?などと、秦基博サイドから言わせれば、「お前誰やねん!」的な感想を持ったのでした。

だから、それからしばらくして、彼の初ミニアルバム「僕らをつなぐもの」が発表された時も、かなり後ろ向きな姿勢で聴いてみたのでした。で、その時も、「悪かねえけど、やっぱ地味」的な印象だったのですが、それでもなにか引っかかるものを感じたので、しばらくしつこく聴いていたら、いつの間にかすごいヘビローしていて、「もしかして、好きなのかも……!」みたいな女子中学生の恋心のような感情が芽生え、セカンドシングル「鱗」あたりからは、もうゾッコンLOVEみたいなことになってしまったのでございます。

秦基博(はた・もとひろ)。宮崎生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。現在27歳。99年頃からライブ活動を始め、04年にはインディーズからアルバムもリリース。06年に「声のいいシンガー専門」と言われるプロダクション、オフィスオーガスタに加入。昨年11月にシングル「シンクロ」でデビューして以来、着実に評判をあげている注目株です。先月、初のフルアルバム「コントラスト」をリリース。

彼の魅力はなんと言っても、まずその声!(←おい!お前さっき「このくらいの歌唱力」とかなんとか言ってたやんけ!)。「硝子と鋼でできた声」と称されるそのトゲトゲ感のあるザラザラ質な声は、最初こそ違和感を覚えますが、聴き込んでいくうちにどんどんクセになっていきます。そして、楽曲がいい!(←おい!お前さっき地味すぎーとか言ってたやん!)。今でも正直地味だと思うし、オーガスタの諸先輩方のような、特殊的才能は感じんのですが、素朴で地味で、でも確実に琴線に触れてくるメロディラインと、飾り気のないストレートな詞世界は、一度覚えるとしばらく頭から離れてくれなくなるくらいの力を持っています。詞世界という意味で、今回のアルバムの中でボクが一番気に入ったのが、「つたえたいコトバ」。


妄想の中の君のしぐさに、ベッドの上悶える。グルグルシーツにくるまって、サナギのような僕が蠢く。どうしようもなくて眠ることにして、余計に目が覚めて天井に話しかける。「この胸苦しいよ。モヤモヤはもう嫌だよ」。電話を握りしめた。金曜日のこと。

臆病な風よ。お願い、見逃してください。君に伝えたい言葉は、もうここまで出てきているのに。プルプルルと聞こえる耳元が、熱く燃えて脈打ってる。キリキリか弱いこの胃腸が、たまらず悲鳴上げている。

とうにキャパは超えて分けわからなくなって、やっぱりダメ。無理だって。幽体離脱寸前。この胸キュンと鳴る。「もしもし」と君の声。静かに電話を切りました。土曜日のこと。

臆病な僕を、お願い、許して下さい。もう自分でも嫌になるんだよ。どうしたらいいんでしょう? この体抜け殻の様に置き去りにしても、君のとこまで飛んで行きたい気持ち、持ち合わせてるのに。

臆病な風よ。お願い、見逃してください。もうこの気持ち破裂しそうなの。どうにかなりそうだよ。声にすれば、宇宙の果てに届きそうなほど、君に伝えたい言葉は「君の事好きなんだ」ってこと。


特に珍しい切り口でもないし、新しい言葉でもない、ただの片思いソングなのですが、それでも聴き手に「この男はいいヤツやね」と感じさせるところが、ボクは好きです。テーマや内容は違いますが、このアルバム全曲に通じるのは、そういう「人柄の良さ」みたいなものかも知れません。それは人工的なドラッグにはない、地味で芳醇な酒の匂いがするのです。

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