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【無人島228日目】寺尾紗穂 『骨壺』

投稿日:2011年6月27日 更新日:

228日目。先日、今話題の映画『奇跡』を観てきました。『誰も知らない』で親に見捨てられた子供たちの「孤独」を描ききった是枝裕和監督が、今回は大人たちに温かく見守られながら、自我と共生を学んでいく子供たちの「成長」を描いています。なによりも、主演の「まえだまえだ」がすばらしい! 弟くんは天才的にかわいいし、お兄ちゃんの渋チンな演技にも泣かされます。「まえだまえだ」という兄弟の、少年時代のピカピカな笑顔が映っているということだけでも、この映画は充分に「奇跡」だと思えるのです。

映画の主題歌はくるりの書き下ろし曲『奇跡』です。ええ歌です。『誰も知らない』ではタテタカコを抜擢し、初のドキュメンタリー長編映画『大丈夫であるように』ではCoccoをフィーチャーした是枝監督は、結構ボクと音楽の趣味が近い方なのではと、かねてから勝手な親近感をいだいております。ボクは音楽の趣味が似ている人とは、無条件で仲良くなれるのです。

で、今日はそんなコレちゃん(←仲良しの体)が好きそうな歌をご紹介します。95日目に紹介した寺尾紗穂が昨年リリースした5枚目のアルバム『残照』に収録されている『骨壺』という歌です。試聴できるサイトを探したのですがどうしても見つからず、歌詞だけでもすごいので、著作権ゴメンナサイで掲載させていただきます。

あなたの骨壺もちたかったな
愛したあなたもひとかかえ

あなたを焼く煙 浴びたかったな
私をあなたで染めるため

あなたの骨壺もちたかったな
憎んだあなたもひとかかえ

あなたを焼く煙 浴びたかったな
私にあなたを刻むため

もうそれもできないね
わたしたちただの二人になるからね

「おいおい、先に殺すのか?」
あなたの声さえまぼろしで

あなたの骨壺もちたかったな
憎んだあなたもひとかかえ

あなたの骨壺もちたかったな
大きなあなたもひとかかえ

この歌詞のすばらしさは「あなたの骨壺もちたかったな」という一節だけで、主人公のスタンスを鮮烈に描ききっているところ。骨壺を持つのは故人の近親者ですから、主人公は奥さん、もしくは奥さんになりたかった人なのでしょう。そして、一生添い遂げる覚悟があったからこそ「骨壺」というモチーフであり、「もちたかった」という過去形が二人の関係の破綻を暗示させています。

熟年離婚かも知れないし、年の離れた不倫カップルだったのかもしれません。でもどういう関係であれ「あなたと別れてさみしい、苦しい」とダイレクトに語るより、「あなたの骨壺が持ちたかった」とひとりごちるほうが、彼女の喪失と空虚、そしてかすかな狂気を表すには、遥かに有効ですな。カテゴリとしては「ラブソング」だけれども、こういう切り口の歌は聴いたことがなかったと、ハッとさせる1曲でした。

例えば中島京子氏の小説『小さいおうち』を映画化するとしたら、監督は是枝氏で、主題歌がこの『骨壺』だったりすると、ボク的にはビンゴです。この企画使ってもいいよ、コレちゃん。(←何様)

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