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【無人島164日目】Randy Pausch “最後の授業”

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最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版

最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版

  • 作者: ランディ パウシュ
  • 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
  • 発売日: 2008/06/19
  • メディア: ハードカバー

164日目。前にもチラッと書きましたが、本に関してボクの苦手なジャンルはというと、自己啓発本と闘病記モノ。自己啓発本の「アンタはこうすればいいのです!」的な上から目線な文章を読むと、「そんなこと知ってんねん!でもできないねん!」って逆ギレしたくなるし、闘病記モノの「死を目前にして悟る人生の素晴らしさ」的な至極真っ当なテーマには、「そんなこと知ってんねん!でも今はダラダラしたいんや!」って意味不明に開き直りたくなる。説教嫌いで現実逃避好き。超ダメ人間。そんなボクの天敵とも思われる、自己啓発に闘病記をくっつけた本が今大ベストセラーになっております。

アメリカ・ペンシルバニア州にあるカーネギーメロン大学で、07年9月に行われたランディ・パウシュ教授の「最後の講義」。「最後の講義(The Last Lecture)」というタイトルは、アメリカの大学でよく行われる講義の名称で、講演者がその講義を人生最後の機会と仮定し、そこで何を話すかによって自分の一番大切なものを考える、というテーマ。あくまで死を「仮定」して、の話です。
ところが今回の講演者であるパウシュ教授には、事情がありました。彼の肝臓には腫瘍が10個もあり、医者からは「もって半年」と余命宣告をされていたのです。だから、彼にとっては、まさにこれが「最後」の授業。本当の意味で「人生最後」の機会に、彼は教え子や恩師や同僚たちを前にして、何を語るのか、どんな講義をするのか。それは会場に集まった400名の聴講者のみならず、瞬く間に全世界が注目するものとなりました。

YouTubeにアップされた彼の約1時間に渡る講義の動画は、現在までに690万以上のアクセスを記録し、今年4月に出版された、その講義の内容と、その前後の裏話や家族との会話などをまとめた本『The Last Lecture』は、全米で3ヶ月もの期間、売上1位を記録する大ベストセラーとなりました。その日本語訳がこの『最後の授業~ぼくの命があるうちに』です。
本のみとDVD付きと2種類が売られていますが、本はあくまでも彼の講義の補足であり、映画で言うとパンフみたいなもの。本だけ読んでもあまり意味はありません。メインはあくまでも昨年9月に行われた講義なので、まだ観ていないのなら講義のDVD付きのほうをお勧めします。もちろん前述のYouTubeでも観れます。
正直語られる内容は、特に目新しいことでもなく、切り口も斬新というほどではありません。人を思いやること、努力すること、感謝すること、信じること、すべてを楽しむこと。そういう、極シンプルで生きる基本のようなことを、写真や映像などをスライドに映しながら、自分の経験談を絡め分かりやすく語る、あまりヒネリのない、ストレートな内容です。そもそもこの講義は、パウシュ教授の幼い子供たちに向けた遺訓だとされているので、それも当然かも知れません。
それでもそのシンプルなメッセージに、観客が1時間ぐっさり釘付けにされてしまうのは、パウシュ教授の話し方と表情のせいでしょう。時に真摯で、時に力強く、時にユーモアさえ交えて話す彼は、病気のことも余命のことも、すべて受け入れてその場に立っているように見せかけて、実はその言葉とは裏腹に、全身で「死にたくない!」と叫んでいます。怖くないはずがないじゃないか。生きたくないはずがないじゃないか。もっと君たちと一緒にいたい。もっと家族と一緒にいたい。生きたい。もっと生きていたい。彼の立ち居振る舞い、その一挙一動に、そんなシンプルなメッセージが透けていて、ボクは講義の内容うんぬんよりも、その言葉にされない言葉にぐさぐさに刺されました。
自己啓発本でも闘病記モノでもなく、死にゆく一人の男の心からのメッセージとして受け取れば、とても「そんなこと知ってんねん!」とは切り捨てられないものがあるのです。

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