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【以前の無人島16日目】アーサー・ゴールデン「さゆり」

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さゆり〈上〉 (文春文庫)

さゆり〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: アーサー ゴールデン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 文庫

16日目。明けました。おめでとうございます。今年もです。しかしお正月ってどーしてこんなにヒマなんでしょうね? テレビもつまらんし店も閉まってるし、観たいDVDは全部レンタル中だし。しょうがねえから、ちょっと長めの本でも読みましょうか。上下巻くらいのやつで、面白いのはないかな? お。これこれ。最近映画化で話題になりました。めもりーずおぶあげいしゃ。

日本海に面した小さな漁村で生まれた娘が、9つで祇園に売られ、先輩にいじめ抜かれながらも、売れっ子芸者になっていくまでの波瀾万丈な人生を、大正から昭和にかけた激動の時代を舞台に綿々と描き上げる、って書くと、どうにもつまんなそうな本ですが、この本、面白いです。ボク的に面白かったポイントは3つ。
1つ目は、この本の著者がアメリカ人であること。しかも日本を舞台にした外国人作家の作品によくあるような、「外の視点から観たエキゾチック・ジャパン」ではなく、芸者の主人公が思い出話を語る一人称で書かれているところです。作品にはひとりもアメリカ人は出てきません。京都・祇園という極小さな、しかも特殊な地域でのできごとを、そこに生きた人の視点で事細かに書き綴っています。アメリカ人のインタビュアーに語る、という設定なので、祇園の仕来りや当時の日本の時代背景なども上手に挟みながら、普通の日本人だって知らないような興味深いリアルをやさしく砕いて説明してくれます。歴史小説としての面白さがあります。
2つ目は、アメリカで出版された原書では、日本語で語られたこの物語をインタビューアーが英語に訳して本にした、という設定ですが、日本の翻訳本ではもちろんそれが日本語になっているところ。ダブル翻訳になってる面白さ。作家もよく調べ上げたけど、これを翻訳した日本の訳者もスゲーってところです。
3つ目は、「大奥かいっ!」ってほどの女同士の熾烈な闘い。足の引っぱり合い。女の武器使いまくり。女ってコエーっていう、ドロドロのストーリー展開。
映画化で、主人公がチャン・ツィーだと聞いた時、「なんで中国人よ?」と思いましたが、本を読んで、この計算高くしたたかで、かつ不思議といつまでも汚れない主人公「さゆり」を演じられるのは、昨今の女優さんだと確かにチャン・ツィーがピッタリかと思いました。まだ映画観てないけど、面白いんですかね?
おまけで4つ目とすると、「悪い奴はみんな衰退して、正義は生き残る」っていう分かりやすいカタルシス。ここらへんだけ、やっぱアメリカ人ねーって思いましたけど。

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