139日目。さすがに2週間も休みを取った後に出社してみると、仕事がちょっとしたクライミングが楽しめるほどの高さにまで積み上げられておりました。しかも、摂氏20度以上の島んちゅぬモードに慣れきってしまった体に、ここんとこの東京の気温は極寒すぎて、すっかり風邪っ引きなのです。だるいは、つらいは、でもこれ以上休めないはで、2週間かけてリフレッシュしてきたボディ&ソウルはすでにボロボロ。デスクの周りに散らばる雪玉のごとし鼻水ティッシュをかき分け、朦朧としながら過酷なクライミングを続けております。せめて音楽だけでも、今年一発目はフォーキーでやさしいこんなCDを紹介させてください。
Ida。アイダと発音します。ニューヨークで活動するインディーズ・バンドで、男女混合の三人組ユニットです。紅一点であるエリザベス・ミッチェルさんは、ソロでも活躍しているミュージシャンで、リサ・ローブと共同でアルバムをリリースした経験もある実力派。日本では3年前にリリースされた「Heart Like A River」というアルバムあたりから注目されはじめましたが、実はすでに結成14年目のベテラン・グループです。
彼らの作る音楽を例えるなら、無人島6日目に紹介したヴァシティ・バニアンの世界観が一番近いでしょうか。ヒットチャートを賑わすポップでキャッチーな音楽とはまったく正反対にある音楽。フォーキーでトラディッショナル。地味で素朴。でも実はその凡庸にも聴こえるメロディーラインの中に、抗い難い中毒性を持っています。
先月リリースされたこの3年ぶり7枚目の新作「Lovers Prayers」は、活動の場をニューヨークからウッドストックに移し、往年のロックバンド「THE BAND」のドラマーであるレヴォン・ヘルム氏が作った「Barn(納屋)」という名のスタジオで録音。釘すら使わずすべて木で組み立てられたというそのスタジオで、彼らもまた異物を一切含まない純粋なフォーク・ミュージックを奏でております。アイダの売りでもあるトリプル・ボーカルで紡がれる歌は、地味さという意味では前作よりはるかに地味だし、同じ理由でその「濃度」はさらに濃くなっているような気がします。
ジャンルは違うけれども、最近のよしもとばななの小説にも通じるモノがあるような。あの「なにも起きないということ」=「美しい」と捉える観念というか、目のつけどころのようなものが、アイダの世界観によく似ているのです。それはベトベトのティッシュペーパーで鼻水を拭き拭き、どうにかこうにか辿り着いた仕事という山の頂からみた、遠く霞む石垣島の波光のきらめきにも似ているのです。発熱につき意味不明。だるい。つらい。休めない。