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【無人島109日目】Tracey Thorn “Out Of The Woods”

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Out of the Woods

Out of the Woods

  • アーティスト: Tracey Thorn
  • 出版社/メーカー: Astralwerks
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: CD


109日目。ボクは一度「こいつはいいなー」と思ったミュージシャンに対しては、例えその後の作品がうおーさおーなデキだったとしても、一度交わした契りを忘れず、仁義を通して聴き続ける任侠リスナーです。新しい作品がなかなかリリースされず、長い沈黙の末に世間から忘れ去られたアーティストでも、ボクの中では決して色褪せず、お務めが終える日には、必ず壁の外までお迎えに上がる所存じゃけん。わしゃー惚れたオナゴのことはぁ〜、そうそう簡単に嫌いになったりせえんのじゃけのぉ。 あっ! 姉御! お帰りなさいまし! わしゃーずーっと待ってたでがす!!!



エヴリシング・バット・ザ・ガール。82年に、同じ英国の大学で、同じ音楽レーベルから、それぞれソロ活動をしていたトレイシーさんとベンくんが組んだ2人組ユニットです。当初は、ボサノバ調のアコースティックなサウンドで、質の高いネオアコを奏でておりましたが、94年ニューヨークのDJ、トッド・テリーのリミックスでリリースされたシングル「Missing」が世界的な大ヒットをかまし、ぐっとエレクトロニカに傾倒していきます。マッシヴ・アタックやディープ・ディッシュなどとのコラボでも話題を呼び、持ち前の詩的で優しいアコースティックサウンドに、ギンギンのドラムンベースやダブサウンドを重ねて行くという手法で、90年代後半に大人気を博しました。

ところが99年に出したアルバム「Temperamental」を最後に、ベンくんが体調を壊したことと、トレイシーさんが妊娠(旦那はベンくん)したことが原因で活動を休止。ベストアルバムやリミックスなどはリリースされましたが、彼らのオリジナルという意味では、すでに8年もの間、沈黙が続いておりました。

ボクは彼らの音楽が大好きで、アルバムもほとんど全部持っています。トレーシーさんの透明感と意思を感じさせる歌声。英語なのに、ちょっと俳句チックな印象を持つ歌詞世界。大胆でインテリジェンスを失わないメロディとアレンジ。90年代当時、オアシスがブルーカラーのロックをがなり、スパイス・ガールズがバブルなガールズポップスを歌っていた時代に、ちょうどもうひとつのトライアングルの頂点にいたのが、EBTGだとボクは思っています。それはおしゃれでハイセンスでありながら、ちゃんと地に足の着いた、イギリスの「平常心」の音楽でした。

だからボクはずっと待っておったのです。いつか彼らが新作を引っさげてカムバックしてくれることを。そしていよいよ今月、エヴリシング・バット・ザ・ガール名義ではないけれど、トレイシーさんこと、トレーシー・ソーンのソロ・アルバム「アウト・オブ・ザ・ウッズ 」がドロップされたのです! 姉御〜!(子育ての)お務めごくろうさんでした!

トレーシーさんは、EBTGとして活動始める前に、ソロで「A Distant Shore」というアルバムを出していますが、このアルバムは今も尚、ネオアコの最高傑作と呼ばれている名盤です。その伝説的なファースト・ソロから数えると、なんと25年ぶりの新作ということになります。

「自分ひとりの力だけでやってみたかった」というトレーシーさんの意思を尊重し、ベンくんは今回は敢えて表には出ておりません。プロデューサーには、ヨーロッパで活躍する気鋭のDJやエレクトロニカ・ミュージシャン5人を起用。1曲のカバー曲を抜けば、ほとんど全部自分で作詞作曲を手掛け、今まではベンくん任せだったアコースティック・ギターやピアノを、自分で演奏するという気合いの入りよう。個人的には、ロンドンで一番人通りの激しいピカデリー・ステーションの近くで、ひとりしゃがみ込んで泣いちゃったの、と淡々と歌う「By Piccadilly Station I Sat Down And Wept」や、日本盤のみのボーナストラックになっている「Book Of Love」のカバーに感涙。ホント「お帰り、姉御」って感じです。

実にクオリティの高いアルバムに仕上がってはいますが、それでもやっぱボクにはなにかが足りない気がします。それはやっぱりベンくんの振り幅の広い狂気的な音楽性と、息のあったハーモニーなんでしょうな。兄貴と姉御が、早くお揃いでお戻りになさる日を、わしゃー今でもずっと待っとるけんのー。

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