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【無人島91日目】Paolo Nutini “These Streets”

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ジーズ・ストリーツ(初回限定盤)

ジーズ・ストリーツ(初回限定盤)

  • アーティスト: パオロ・ヌティーニ
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2007/03/07
  • メディア: CD

91日目。ボクの好きな本に、浮谷東次郎著「がむしゃら1500キロ」という本があります。いずれこの無人島ブログでも紹介つもりなので詳細は避けますが、23歳で夭逝したレーシング・ドライバーで、エッセイを3冊書き残しています。彼の本の魅力は、なんと言っても「荒削り」なところ。15〜16歳で書き上げた処女作「がむしゃら1500キロ」は、エッセイというよりただの日記なのですが、稚拙でひとりよがりな文章でありながら、技巧を駆使したエッセイストには描けない、素っ裸の瑞々しいポテンシャルを感じさせてくれます。



パオロ・ヌティーニ。って、名前だけ聞くと、スゴイ恰幅のいいイタリア人オペラ歌手なんかを想像しちゃいますが、実はスコットランド出身の華奢なシンガー・ソングライターです。弱冠20歳。17歳の時にグラスゴーの学校を退学し、ロンドンへ。パブでのライブや、イベントなどでの演奏が評判を呼び、18歳で名門アトランティック・レコーズと契約。その後は、ポール・ウェラーやローリング・ストーンズのサポート・アクトなどを務め、06年満を持してデビューしたシンデレラ・ボーイです。

系列でいうと、ジェームス・ブラント、ダニエル・パウター、ジェームス・モリソンつながり。ここんとこ続いてる、イギリス人+白人+男+シンガー・ソングライター+アコースティック+声がハスキー+美メロ+ソウルフル+色男=売れる!、という計算式にピッタリな感じのパオロ君。さすがに4人目ともなるといい加減どうよ?とも思いますが、ところがどっこい、これまたスゴイ才能です。何匹目のどじょうであれ、いいものはいい。逆に食い飽きたころに出されて、そんでもウマい!と食わせるほうが、なおさらスゴイかも知れません。まずはその彼のデビュー・シングル「Last Request」をどうぞ。





「最後のリクエストだ。君を……抱・き・し・め・た・い!」。歌詞だけ読むと超クサクサな歌ですが、全英シングル・チャートで最高5位にまで上り詰め、続いてドロップしたファースト・アルバム「These Streets」は、アルバム・チャートに初登場3位という、計算式を裏切らない売れっぷり。

誰に一番近いかっていうと、たぶんジェームス・モリソン。かすれながらも深い歌声、奇を衒わない王道でかつ琴線に触れるメロディ、白人でありながらソウルフル、そして端正なルックス、しかもほぼ同い年(ジェームスは22歳)ってあたりが、モロ被りです。でも正直ボク的には、アルバムを聴いた限りでは、今のところジェームスの方が完成度が高いと思います。

アルバム収録曲の「Alloway Grove」という曲はポール・サイモンの影響を感じさせるし、「Loving You」ではプリンスを彷彿とさせる。まるで音楽とマッチしていないアルバムのアートワークも、パオロ君の未完成さを暗示するかのようです。

でも明らかにジェームスと違うのは、完成された自分の世界を持つジェームスに比べ、パオロ君のほうが「荒削り」な分だけ、これからどうなるか分からん!つう、ポテンシャルを感じさせるところ。女にフラれてベロベロに呑みまくる「Rewind」や、田舎からロンドンに出て来て、やっぱ都会は違うっぺー、女の子カワイかー、でもなんか馴染めんとよねーってつぶやく「These Streets」は、今しか表現できないであろう、マッパな彼の声として、心に響きます。

器用にこなせる、というのは大切な要素ですが、不器用でも「何かを持っている」というのは、それ以上に貴重なギフトなのでしょう。浮谷東次郎の本に感じる、「これからこの人はどうなるんだろう?」というドキドキ感が、パオロ君のアルバムにはあるのです。

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