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【無人島42日目】佐藤多佳子 “一瞬の風になれ”

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一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ--

一瞬の風になれ 第一部 –イチニツイテ–

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/08/26
  • メディア: 単行本


42日目。最近やってないんですが、数年前まで毎年1回フルマラソンを走ってました。特に陸上好きとか、タイムが速いとかじゃないんですけど、走るのって人がいうほどキライじゃないんですよね。他人と勝負したり、チームワークを必要とされる球技よりも、黙々とひとりで自分と向き合っちゃう系のフィールドスポーツのほうが好き。ランニングハイを超え、アドレナリンが底尽きた30キロ地点あたりから訪れる苦行のような時間。周りはぼんやりと見えなくなり、いつの間にか伴走しているもうひとりの自分に、罵倒されながら走るのが好き。ドM。



先月から3ヶ月連続で刊行されている佐藤多佳子の「一瞬の風になれ 」。高校陸上を舞台にした青春小説です。3部作で、現在第2部まで出版されています。まだ完結していない本のレビューを書くのもどうかと思ったんですが、2部まででも十分面白いんで、紹介しちゃいます。

天才的なスプリンターの「連」と、サッカーに挫折して陸上に転向した「新二」。物語は、連を見つめる新二のモノローグで語られます。連の才能に嫉妬と憧れを抱きつつ、いつしか陸上に魅入られていく新二。友情、挫折、葛藤、成長という、スポ根青春小説の王道を準拠しつつも、不自然なフィクションに偏らない「リアルさ」のバランスが絶妙です。

少年スポーツ連作小説で、一人の天才とそれを見つめる親友、という図は、あさのあつこの傑作「バッテリー」と被りますが、「バッテリー」のマンガチックなスピード感とカタルシスに比べ、「一瞬の風になれ」は新二の100メートル走の一進一退なタイムに象徴されるごとく、地味で黙々としたストーリー。でも、そのひたむきさと寡黙さが、「バッテリー」にはない新鮮さを生み出しています。なんとなくですが、早実のハンカチ王子こと斎藤佑樹クンがバカウケしてるのに通じるものがあるかも。なんつうか、あの地味で実直な爽やかさ。一生懸命であることの、みっともなさを超越したかっこよさ。この本の底辺に流れるのは、そんなイメージです。


「努力したぶん、きっちり結果が出るわけじゃない。だけど、努力しなかったら、まったく結果は出ない。青黒くどろんと暮れた空を見上げて呼吸を整えた。デカい星が一つだけ見える。少しだけ風が出てきた。」(本文より)


佐藤多佳子の本は以前「神様がくれた指 」というやつを読んだことがありましたが、ストーリーよりも語り口が上手な作家さんです。スイスイ読めるし、飽きさせない。今月末に出る第3部が楽しみだ。オレもまた走ろっかな。久々に自分自身に罵倒されてみたいかも。ドM。

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