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【無人島294日目】こうの史代 『この世界の片隅に』

投稿日:2016年11月29日 更新日:

294日目。20年以上前に亡くなった母方の伯母は終戦の日、玉音放送を聞いて他の家族が安堵の溜息を落とすなか、「なんで負けなのよ!もっと戦えるわ!」と悔し涙を流したのだそう。後年、母がそのことで伯母をからかうと、「アレは嘘よ。嬉し泣きだったのよ」などと嘯いておりましたが、まだ子供だった甥のボクから見ても一本気かつ情熱的だった彼女のこと、きっとモンペ姿のおさげ髪を激しく揺らしながら、おいおいと泣き叫んだ姿が容易に想像できます。日本が勝つと信じて、正に「耐え難きを耐え忍び難きを忍んで」きただろう伯母(を含んだ多くの日本人)にとって、負けを認めることは、それまでの苦労を水泡に帰することと同意だったはず。「終わって良かった」と安堵するよりも先に、「ふざけんな!勝手に終わらせてんじゃねえよ!」と憤るほうが、感情の流れとして納得できるような気がします。

週末、いま話題の映画『この世界の片隅に』を鑑賞してきました。原爆投下後の広島を描いた『夕凪の街 桜の国』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した「こうの史代」氏が、2007年から2年に渡り連載していた同名漫画が原作。映画は、一部描かれていない要素はあるものの、ほぼ原作に忠実に作られています。むしろ漫画と全く同じアングルで描かれている印象的なシーンが多く、「片渕須直」監督の「原作リスペクト」がジンジンと伝わります。

物語は昭和9年から21年までの広島県呉市を舞台に、主人公である少女を通して、反戦でも懐古趣味でもないフラットな目線で、当時の市井の人々の生活を描いています。クラウドファンディングで集められた限りある予算の中で、CGは一切使わず、敵戦闘機の動きは切り紙アニメ(各部分を少しずつ動かしながら一コマずつ撮影する)の技術を使って撮影したという執念の絵作りは、驚くほど生命力に溢れていて、観客にアニメーションを見ていることを失念させてしまうほどのリアリティがあります。

音楽を担当したのは255日目にも紹介した、現「KIRINJI」のメンバーでもある「コトリンゴ」。主題歌は、ザ・フォーク・クルセダーズの1968年の楽曲『悲しくてやりきれない』のカバーです。

有名な曲なので多くの方がカバーされていますが、ボク的にこの歌のオリジナルは「おおたか静流」のこのバージョン。「コトリンゴ」もそうですが、少し浮世離れしたボーカルが、この歌の持つ「絶望」を和らげてくれるのです。

昨今のアーティストの中で、歌のウマさでは「七尾旅人」と双璧をなす(と勝手にボクが思っている)「奇妙礼太郎」のカバーも素敵です。『ちいさい秋みつけた』などで知られるサトウハチローが書き下ろしたこの歌詞の「やりきれなさ」と、見事にマッチした歌声です。

ネタバレになりますが、映画の終盤で、玉音放送を聞いた主人公の「すず」さんが、「暴力で従えとったということか!じゃけえ暴力に屈するいう事かね!それがこの国の正体かね!」と泣き叫ぶシーンがあり、久しぶりに冒頭の伯母を思い出したのです。敗戦という事実に「すず」さんがみせた拒絶反応は、軍国主義に洗脳されていたわけではもちろんなく、戦争という「暴力」に白旗を上げることへの抵抗です。彼女にとって戦争とは、生活を脅かす「テロリズム」あり、家族を奪い、故郷をめちゃくちゃにしたそのテロに屈しることに、激しく涙したのです。そしてその涙は、ボクの大好きだったあの伯母が、同じ日に流した、同じ涙のはずなのです。

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