19日目。厳しくも気持ちいい冬の無人島に夜の帳が降りました。冬の空は空気が澄んでいて、星がキラキラと瞬いて見えます。真っ暗な浜辺に、モコモコな格好で体育座りして、首を痛くなるほど90度に上げて満天の星空を見つめます。孤独でいることは、寂しいことではないです。だって、あの星もこの星もみんなひとりぽっちなのに、キラキラしてるんだもの。そんなことを考えながら、本物の孤独の中に生きたこの人の歌を聴きました。
ジミー・スコット。今年81歳。先天性カルマン症候群で、身長も伸びず声変わりもしてないアメリカ人の爺さんです。レコード会社の思惑や、まわりの欲に踊らされ、若い時代には日の目を見なかったこの人を、映画監督のデビッド・リンチが見いだし、自身の映画「ツインピークス」で起用。70歳にしてようやく表舞台に立った孤高の天才です。
昨年春に、東京ブルーノートでボクははじめて彼のライブを観ました。ステージまで車椅子で登場。杖を突きながら、よろよろとマイクの前に立ち、歌い始めたと思ったら椅子に座り込み、3曲歌って休憩。しばらくしてまた現れたと思ったら、3曲歌って終わり。これで、8,600円。普通なら怒ります。ふざけんなジジイ!って言います。でも、たった6曲の歌で、「8,600円分の価値はあったね」って思わせるなにかが、そのステージにはあったんです。
このアルバムは、8年前に彼が出したカバー曲集です。エルビス・コステロ、プリンス、ジョン・レノン、エルトン・ジョン、ボーイ・ジョージなどの天才たちの歌をカバーしているのですが、もうなんつーか、涙でます。選曲はどれも報われない恋の歌。この身体に障害を持った、一番輝いていたはずの時期に誰にも見向きされなかったジイさんが、きっと陰ながらしていたはずの恋を、男とも女ともつかないかすれたハイトーンで切々と歌うんです。
「キミがいなくなって、ボクは病院に行ったんだ。医者がなんて言ったと思う?とにかく人生を楽しめだってさ。キミに代わるものは、何もないっていうのに。」(Nothing Compares 2 U)
ステージの上で、泣きそうになりながら歌うこのオジイの孤独に比べれば、ボクはなんて恵まれた人生なんだろうと、彼の横顔をじっと見つめながら思ったりしました。