20日目。翌朝、きれいに晴れた空を見上げつつ、ボクは森の奥へ入って行きました。けもの道をつたい、のんびり歩いて行くと、突然森が開けてそこに美しいみずうみがありました。しんと静まりかえった水面は、まるで空を映すための鏡のように、ただ黙って静かに横たわっています。水辺に腰を下ろし、ボクはこの本を読み始めました。
先月出たよしもとばななの新作です。ボクは彼女の描く世界が好きで、新刊が出るたびに買ってしまいます。「キッチン」でデビューした直後は、女子高生の愛読書的な扱いをされていましたが、そんなミーハーファンを次々と切り捨てていくような渋い作品を上梓しつづけ、彼女は「ばななワールド」を驀進しています。
この本、まず装丁が美しい。「100万部突破!」「映画化決定!」「泣けます!」みたいな下品な帯がどの本にもついている中、この「みずうみ」だけ帯をつけず、裸のまま本屋に並べられています。カバーの写真は、これもボクの大好きな写真家、川内倫子さんの美しいフォトグラフ。ボク的には、もうそれだけで買いです。ジャケ買いです。
内容は相変わらず彼女のオハコである、「変な環境で育ってしまった主人公が、これまたおかしな育ち方をした異性と出会って恋に落ちるラブストーリー」です。新興宗教が絡んでくるのと、主人公が絵描きという設定なので、今回の作品は特に「ハチ公の最後の恋人」に近いです。
特に大きなドラマもなく、淡々と物語は進みます。後半ちょっとした謎解きはあるけれど、それも大した展開ではありません。彼女の作品は、ただただ日常の中にいて少し弱っている人間が、ささいなきっかけを光として、少しずつ再生していく過程を丁寧に丹念に描いていきます。
「ほんとうに人を好きになるということが、今、はじまろうとしていた。重く、面倒くさいことだったが、見返りも大きい。大きすぎて、空を見上げている気持ちになる。飛行機の中で、光る雲を見ているような気持ちに。それは、きれいすぎて悲しい気持ちととてもよく似ている。自分がこの世界にいられるのが、大きな目で見たら実はそう長い時間ではないと気づいてしまう時の感じに、とてもよく似ていたのだ。」
うーん。まさに、ばななワールド。ずいぶん前にインタビューで「私が書くテーマは、死、オカルト、近親相姦。そればっかりです」って言ってましたが、相変わらずそのまんまを突っ走ってますね。どんどん行ってください。ずっとついていきますよ。