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【無人島195日目】松倉如子 『パンパラハラッパ』

投稿日:2009年10月20日 更新日:

195日目。こんなブログを書いていますが、音楽や本を語るにおいて、好き嫌いというのは人それぞれだし、どんなに熱いレビューを書いても、その人に「私は嫌い!」と言われれば、ハイソレマデヨなのです。ましてや、「コレは良い」「コレはダメ」などという物の言いは、自分のチンクリな物差しに因るものでしかないので、できるだけそういう表現は使わんようにしたいなあと思ったりします。でもそんなことをウダウダ考えていると、「ほんじゃ、お前は一体なにを土台に人様に紹介しとるんじゃい!」という、至極真っ当な逆説もあったりして、ボクの性能の良くない頭は、プスプスと煙を吐いたりするのです。そこでボクは決めました。そうだ、ボクは「ホンモノ」だけを紹介しよう。うん、そうしよう。

松倉如子(ゆきこ)というシンガーソングライターをご存知でしょうか? ボクが彼女の歌を知ったきっかけは、自分でもよく覚えていないのですが、確か今年の夏頃、「タテタカコ」か「二階堂和美」というキーワードで、ネットという名の荒海をドンブラコッコ検索していた最中のことでした。検索に引っかかったどなたかのブログで、「松倉如子って人もスゴい!」みたいな記事を見つけたのです。人様が褒めるものはなにはともあれ自分でも試してみたくなる性格のボクは、早速iTunesでも検索。今年6月にリリースされた彼女の最新アルバム『パンパラハラッパ』と出会ったのです。

涙がこぼれる 直前
涙がこぼれる いつもね
涙がこぼれそうだ ああ
涙がこぼれてしまった

本当はただ友達に
なりたかっただけなのに
嘘つかない 友達でいて
もう恋はいらないから

たったった たたったった
走る 走って
あなたを追いかけてついていっただけ
たったった たたったった
走る 走って
あなたを追いかけた

本当はただ友達に
なりたかっただけなのに
ねえ どうして
そのままでいられなかった

涙がこぼれるよ
涙こぼれたんだねえ

少女というより幼女を連想させる容姿と、母親の胸に耳をあてて聴いた子守唄のような、ややこごもった深みのある歌声。そして、シンプルな旋律とシンプルな言葉で綴られた、私信のような楽曲。カーン!完全ノックアウトでございます。

松倉如子氏は1980年大阪生まれ。京都の大学を卒業し、05年に上京。「はちみつぱい」や「アーリータイムス・ストリングス・バンド」の元メンバーで、岡林信康や高田渡とも親交の深い音楽家・渡辺勝氏と知り合い、06年から二人編成でライブ活動をスタートします。07年には「栗コーダーカルテット」の関島岳郎や、元「フィッシュマンズ」のHONZIなどをゲストに迎え、ファーストアルバム『星』をリリース。自主制作盤ながら、その圧倒的な「本物感」が話題を呼びます。その後、あがた森魚のトリビュートアルバムなどへの参加を経て、今作『パンパラハラッパ』のリリースとなります。

そんなこんなをネットの荒海から見つけ出し、どうしてもライブを見たくなったので、先週末に東京は亀有の「KID BOX」というライブハウスまで、彼女の歌を聴きにいってきました。

10人も入ればいっぱいになる小さな小さなライブハウスで、小さな椅子にちょこんと座っている時は、お人形さんのように大人しい彼女が、伴奏に合わせてゆっくりと揺れながら、やがて立ち上がり何かを思い出すかのように、もしくは何かを吐き出すかのように歌う姿は、小さなお店のそこだけが舞台の一幕のような、不思議な錯覚を覚えます。楽しい歌も悲しい歌も、どこか淡々と、同じ温度で歌う彼女のステージは、例えるなら落語か朗読劇の舞台に近いでしょうか。語られる世界の彩りと、目の前に見える風景のギャップの面白さ、という意味で。

もっと簡潔に言えば、タテタカコの切実さと、二階堂和美の奔放さと、浜田真理子の寂しさと、中納良恵のファンキーさを、全部入れてぐるぐるにしてマーブルチョコにしちゃった感じです。うん。簡潔やな。分かりやすいかどうかは別にして。

ライブ終了後、ファーストアルバム『星』を購入しサインをお願いすると、歌詞カードいっぱいにイラスト付きで、「あ・り・が・と・う」と描いてくれました。こちらこそ、ありがとう。多分、メジャー路線なんてまったく興味のない人だとは思いますが、もっと多くの人に聴いてほしい歌声です。つまりホンモノなのです。

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