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【無人島151日目】朝倉かすみ “田村はまだか”

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田村はまだか

田村はまだか

  • 作者: 朝倉 かすみ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/02/21
  • メディア: ハードカバー

151日目。唐突ですが、「人を待つ姿」が好きです。待ち人フェチ。なんじゃそりゃ。例えば、渋谷ハチ公前とかで、恋人を待ちあぐねている女の子とか見るとゾクゾクします。ってちょっと変態っぽいですが、そうじゃなくて、誰かが誰かを待っている時の表情にグッときたりするのです。誰かを待つ、というのは、誰かを想う、というのに近いからでしょうか。相手が遅れていれば、心配したりいらだったり不安になったりしながら、目では絶えずその人のフォルムを探している。人ごみ溢れるターミナル駅で、ガラス張りの喫茶店のテーブルで、最終間近のひっそりとした改札口で、誰かを待っている人の姿は、いつもちょっと深刻でちょっと滑稽で、そしてどこか愛らしいのです。

朝倉かすみ著の「田村はまだか」は、そんな「待つ人」にフォーカスした小説。舞台は札幌・すすき野。小学校の同窓会の3次会で、小さなバーに訪れた40歳の男女5人。彼らは、悪天候のため交通機関が遅れ、いまだ到着しない「田村」という同級生を待っています。「田村はまだか」「田村遅いなあ」。そんな台詞を肴に酒を飲む彼らと、バーのマスターを入れた6人の、それぞれの人生を覗き見するような展開で物語は進みます。
20歳以上年下の高校生に想いを寄せる女教師。隣人のブログに一喜一憂する40歳の童貞男。客のこぼした印象的な言葉をそっとノートに書き記すマスター。彼らは田村を待ちながら、田村の思い出話を語り、自分の人生を語り、語れないことを酒と一緒に飲み干し、そしてまた田村を待つ、を繰り返しながら、ぐだぐだな一夜を過ごします。
40歳という、若くはないが、まだ何かできるかも知れないという、微妙な年齢に惑う彼らは、小学校の頃にすでに「孤高の存在」として一目置かれていた田村に会うことで、なにか指針、もしくはサインのようなものが得られるような気がして、ずっと待っています。でも田村はこない。田村はまだか。田村遅いぞ。
最終的に田村が現れるのかどうかは本を読んでからのお楽しみとして、ボク的にはこの本が「待つこと」をテーマにしているところで、ゾクゾクしました。その場にいない、でももうすぐそこに来る人。幻想が現実となって立ち上がる前の、ほんのひととき。やがて待ち人がくると、待っていた人は、「待つ人」の表情を捨て、恋人や家族や友達の顔に戻ります。その、一人だとできないけれど相手と一緒でもできない、ちょっと不思議な行為になぜかグッとくるのです。待ち人フェチ。やっぱ変態。

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