255日目。スタジオ・ジブリ最新作『風立ちぬ』。みなさまはもうご覧になりましたでしょうか? ボクは先週末に鑑賞してきたのですが、いやはや、実に素晴らしかったです。『紅の豚』で描いたポルコ・ロッソのロマンティシズムと、『崖の上のポニョ』の濃度の高いイノセンスと、『おもひでぽろぽろ』の等身大の痛みと切なさを混ぜ込んだ、スタジオ・ジブリの総決算のような作品で、『となりのトトロ』のように世代を超えた共感はないかもしれませんが、マジメに仕事に励み、マジメに恋に悩んで生きてきた30代以上の諸氏には痛いほどグッサリと刺さる作品ではないでしょうか。さほどマジメに生きてきたワケではないボクですが、それでもラストシーンでは胸を鷲掴みにされてしまいました。
主題歌はご存知、荒井由実の『ひこうき雲』。リリースが1973年の作品ですから、ちょうど40年前の楽曲ということになります。1973年のヒット曲を調べてみますと、年間1位がぴんからトリオの『女のみち』とのことですから、荒井由実の楽曲のエバーグリーンさには、改めて嘆称させられます。
『ひこうき雲』のテーマは「夭逝」。彼女の幼馴染の死と、当時新聞を賑わせた高校生同士の飛び降り心中をモチーフに、若くしてこの世を去る人々への「追悼」と「共感」と「憧憬」を歌った楽曲です。「若くして死ぬって悲しいよね」という歌ではなく、「意外と幸せだったかもしれないし、そんなの本人に聞かないとわかんないよね。私はちょっとうらやましいかも」っていう、なんとも天才らしいポイントオブビュー。当時まだ高校生だったユーミンの多感さを考えると、余計なお世話ですが、無事に大人になってくれて本当によかったなあと思うのです。
有名な歌なので多くのミュージシャンがカバーしておりますが、今日はボクがその中でも特に秀逸だと思う2曲をご紹介いたします。
こちらはコトリンゴのカバー。毎年秋に多摩川河川敷で行われる『もみじ市』のイメージソングを収録したコンピレーション『旅と音楽と、』に収録されております。ピアノオンリーの飾らないアレンジと、コトリンゴの子供のような歌声が、この歌の持つ「無垢さ」と「強さ」を際立たせています。
こちらは荒井由実、ガロ、ハイファイ・セットなどを排出したレーベル「アルファレコード」のトリビュートアルバム『VELVET SONGS』に収録されている、中塚武の『ひこうき雲』。海外での評価も高かったユニット『QYPTHONE』を主宰していた中塚氏らしい無国籍なジャズアレンジで、ウッドベースの通底音が超かっちょいいです。中途半端なアレンジでカバーするよりも、このくらい振り切ってくれたほうが逆に気持ちいいし面白いという、良いお手本のようなカバーですな。
ほかの人にはわからない
あまりにも若すぎたとただ思うだけ
けれどしあわせ
『風立ちぬ』の中で「創造的人生の持ち時間は10年だ。キミの10年を力を尽くして生きなさい」という台詞が出てきます。いやしくもクリエイターの端くれとして米を買っているボクは、この言葉を聞いて背筋が伸びる思いでしたが、はてさてボクの10年はもう過ぎたのでしょうか? それともこれからなのでしょうか? はたまたただ今絶賛真っ最中なのでしょうか? おそるおそる空を見上げると、一筋のひこうき雲。ほかの人には理解されなくても、あなたはあなたの幸せを見つけなさい、とでも言うようにたなびいています。頭上にまだ風は吹いていることを信じ、ボクはこれからも「生きねば」なりません。