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【無人島136日目】青野春秋 “俺はまだ本気出してないだけ”

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俺はまだ本気出してないだけ 1 (IKKI COMICS)

俺はまだ本気出してないだけ 1 (IKKI COMICS)

  • 作者: 青野 春秋
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/10/30
  • メディア: コミック

136日目。前にもこのブログでちょろっと書きましたが、ボクは大学卒業後、勤めた会社を早々に退社し、7年ほど海外を放浪しておりました。同い年の友人たちが、日本でガツガツ出世していくのを傍目に、ボクは「自分のドリームをキャッチするんだ!」とかなんとか、ルー大柴的な台詞をお題目に、見知らぬ国の見知らぬ部屋で、「まだまだオレはこれからよ? ビックリすんなよ?」などと、鏡に映る自分を相手に、グダグダと酒を呑んで暮らしておりました。今では無事日本でマジメ(?)に働いとるわけですが、それでもボクは心のどこかで、今でもずっと思ってたりします。「俺はまだ本気出してないだけだ」と。

本屋で偶然目にし、そのタイトルにガッツリやられ、タイトル買いしてしまったマンガ『俺はまだ本気出してないだけ』。小学館の「月刊IKKI」 の新人賞でデビューした漫画家・青野春秋の初単行本です。

高校生の娘と実父と暮らしている四十路のヤモメ男・シズオは、「自分探し」を理由に突然15年勤務した会社を退社。家でゴロゴロとゲームなんぞをして過ごしておりましたが、たまたま手にしたマンガが面白かったという理由だけで漫画家になることを決意。とは言え、特に情熱や才能があるワケでもなく、若者にまじりバーガーショップでバイトしながら、細々とマンガを描いて持ち込みをする日々。酒に酔えば「オレ、スゴイことになるぜ?」などと大口を叩き、ひとりになれば「いいのか?ホントにこれでいいのか?」と自問を繰り返す、そんなキャラクターです。

世間一般的に言えば、シズオは明らかに「負け組」だし、「俺はまだ本気出してないだけ」などとほざくヤツに、ろくなやつはいないのも通説でしょう。だから、このマンガを、ただの自堕落なオヤジを笑うコメディとすればそうも読めるのですが、それだけでは収まりきれないものがこの作品にはあります。

自分の中に、熱くなりきれなかったまま、ほっぽってある気持ち。「いつか、いつか」と思っているうちに、あらゆる意味で動かなくなってしまった体。たぶんボクたちの誰もが持っていて、でもうまくごまかして寝かしつけてある「夢」とか「焦り」などと呼ばれるものを、シズオは真正面から捉えようとしています。

あとがきに添えられた著者・青野春秋のポエムは、そのままシズオの声として、ボクの胸にグッサリ刺さるのです。




もう転びすぎてヒザがボロボロです

でも転びかたは悪くないと思います

変わったあだなで呼ばれてます

人気があるんだと思います

まったく友達が出来ません

みんなえんりょしてるんだと思います

ふるえるくらい怒られます

みこみがあるんだと思います

カガミに知らない人が映ってます

たぶんいいヤツなんだと思います

首から左腕にしびれを感じます

いちじ的なものだと思います

俺は大丈夫です

家賃はきちんと納めてます

野菜もちゃんと食べてます

なるたけ笑ってやってます

こんなに大きくなりました

お母さん産んでくれてありがとう




不惑にして惑いまくるシズオの生き方は、確かにみじめで滑稽ですが、ボクがシズオよりも優良であるとは、とても思えないのです。俺は本気を出したのか? 今でも本気が出せるのか? 転ぶのを怖れて走れてないのではないか? そんなことを自問してしまいます。第2集が楽しみな作品です。

シズオの台詞に「自分の年齢を3で割ってみな。8? じゃ、8時なわけよ、朝のね。人生を24時間にたとえるとさ。まだまだ、これからでないかい?」っていう台詞がありました。この公式に当てはめるとボクは今、午後1時くらいです。まだ1時か。結構日が高いな。よし、これからだ。本気出しちゃおっと。

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