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【無人島297日目】Jóhann Jóhannsson 『Orphée』

投稿日:2017年6月20日 更新日:

297日目。突然ですが、アメリカ人には「肩こり」がないってご存知です? 英語で「肩こり」を指す単語がなく、「肩こり」の認識がないので、「肩こり」自体が存在しないのだそう。彼らに日本語の「肩こり」という言葉と、それが意味する肩の痛みを教えると、途端に「肩こり」になってしまうのだとか。ふーん。どこまで本当かはわかりませんが、こういう「言語」と「認識」の相対関係を、学術的には「サピア=ウォーフの仮説」と呼ぶのだそうです。日常使っている言語(ボクにとっての日本語)は、コミュニケーションツールというだけでなく、存在認識や価値観、もしくは物の見え方や思考までも、形成しているのだという「仮説」です。「アメリカンジョークって全然笑えねぇ!」って思うのは、言葉や文化の壁以前に、英語を日常言語としている人たちとは、見えているものや感じているものが、そもそも全く違うのかも知れません。そう考えると、腑に落ちることもたくさんあると同時に、少し空恐ろしい気持ちにもなります。

閑話休題。先日『メッセージ』という映画を鑑賞してきました。突如地球の各所に現れた複数の宇宙船。各国がそれぞれのアプローチで、宇宙船とのコンタクトを図る中、主人公であるアメリカの言語学者は、宇宙船内部に潜入し、UMAとのコミュニケーションを試みます。やがて、政治的な圧力や軋轢に翻弄されながらも、主人公は宇宙人と心を通わせ合うようになり……。SF映画の名作として名高い『コンタクト』や『インターステラー』などとも比肩する、上質かつ重厚なヒューマンドラマで、「宇宙人がタコ足(しかも墨を吹く)」という超昭和な容姿が全く気にならないほど、誘引力のあるストーリーでした。

この映画でも、前述の「サピア=ウォーフの仮説」が取り上げられていて、主人公は宇宙人の言語を理解していくにつれ、ある「変化」を体験します。アメリカ人が「肩こり」を知るように、未知の言語を習得することで、今まで認識できなかったものを知覚するようになるのです。この映画を「SF」たらしめているのは、UMAの存在よりも、その「知覚」へのサイエンスであり、観客を「あなたならどうする?」という深遠なクエスチョンの淵に放り込むフィクション力なのです。

音楽担当はアイスランドの鬼才「ヨハン・ヨハンソン」。かつてはエレクトロニカをベースにした実験的な音楽が印象的でしたが、昨年、6年ぶりにリリースしたアルバム『オルフェ(Orphée)』では、弦楽四重奏やオーケストラをメインに、よりポスト・クラシカルな作品を発表。『メッセージ』では、硬質かつスタイリッシュな映像と、神々しささえ感じるヨハンさんの音楽が、見事にマッチしていて感動的でした。映画とは離れますが、『オルフェ』収録の楽曲『Flight From The City』の、ほんの数分かつたった二人のダンスで、人生の全てを描き切ったようなPVを貼っておきます。

エスキモーは「雪の色」を表す400種類の言葉を持ち、ブラジル先住民のピダハン族は「数」を表す言葉を持たないのだそう。「サピア=ウォーフの仮説」はあくまで「仮説」ですが、降る雪の中にいくつもの異なる「白」を認める人たちや、「数」に囚われずに人生を送っている人たちが、この世のどこかにいるのだと思うと、満天の星空を見上げる心地にも似た、なんともロマンチックな気分になります。ちなみに、言語の時制に未来形(will)を持たない日本人は、「未来」のことを「現在」のことのように話すので、未来と現実を混合しがちなのだとか。だから、将来のための「貯金」が得意なんですって。あらまあ、日本人って。

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