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【無人島289日目】Anohni 『Hopelessness』

投稿日:2016年7月13日 更新日:

289日目。先週末、お台場の「日本科学未来館」で開催されている『Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験』に行ってまいりました。360度カメラで撮影したビョークさんの新曲ミュージックビデオを、VR(ヴァーチャルリアリティ)のヘッドセットをつけて体感するという新感覚なイベント。観覧者は50人ずつくらい、丸椅子だけが置かれた何もない部屋に通され、ゴーグルとヘッドフォンを渡されます。簡単な操作説明のあと、各人がヘッドセットをつけて、それぞれのタイミングでビョークさんの世界に入っていくのです。「逃げ場がない」という意味では、映画よりも閉塞的で、ジェットコースター並みに暴力的な体験を、控え室みたいな殺風景な部屋で経験するというシュールリアリズム。すぐ隣にいる人と同じ映像を見ているはずなのに、まったく何も共有できないという圧倒的な孤独感。短い時間でしたが、ちょっとしたドラッグ体験にも似た非日常感がございました。VR、恐るべし。それ以上に恐るべし、ビョーク。

さらにその前週、同じく「日本科学未来館」で、今回のイベントに合わせて来日したビョークさんが「DJをする」イベントがあるというんで、それにも参加してきました。

おおよそ3時間半ほどのプレイ中、最初の1時間は秋田音頭や沖縄民謡を延々と流し続けて観客をどよめかせておりましたが、中盤からはおそらくビョークさんが最近オキニな音楽を、思いつくまま流し続けるという奔放なDJスタイル。でもそれが、なにかしらの「塊り」になって聴こえてくるのは、鬼才たる所以なのでしょうか。ボクは曲が変わるたびに音楽認識アプリで検索をかけておったのですが、その中でも特に印象に残った数曲をご紹介しましょう。

ベネズエラ出身のトラックメーカー「アルカ(Arca)」。カニエ・ウェストの2013年のアルバム『イーザス(Yeezus)』に参加したことで注目を浴び、昨年リリースされたビョークさんの最新アルバム『ヴァルニキュラ(Vulnicura)』では、共同プロデューサーとして名を連ねている、弱冠26歳の超大型ルーキーです。「これ、ビョークの新作PVだよ?」って見せられたら、なんの疑いもなく頷いてしまいそうな映像美。背中のブツブツが超怖いです。

ロサンゼルスで2007年から活動している『OFWGKTA』というヒップホップグループのメンバーである「シド・ザ・キッド(Syd tha Kyd)」という女性シンガーが、2011年に別メンバーと結成した「The Internet」というバンド名義で、昨年リリースした楽曲。スモーキーかつ粘着性のあるビートに乗せて、「女性」が「女性の恋人」に向けて愛を囁くリリックが印象的です。

2013年にデビューしたアメリカのR&Bシンガーソングライター「ケレラ(Kelela)」が昨年発表した楽曲。この曲は違いますが、ケレラさんの作品にもプロデューサーとして前述のアルカ君が参加しております。脈絡がないように見えて、意外と「つながり」を意識した選曲だったのかも知れません。

69日目にも181日目にも紹介した「アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ(Antony & The Johnsons)」のアントニー・へガーティ君、もといアントーニー・へガーティさんが、「アノーニ(Anohni)」という新名義で今年リリースしたアルバム『Hopelessness』の収録曲。ビョークさんの2007年のアルバム『ヴォルタ(Volta)』にアントニーさんが客演で参加し、2010年のアントニーさんのアルバム『スワンライツ(Swanlights)』では、逆にビョークさんがデュエットで参加という、BFF的関係なお二人。イベントに来ていた多くの観客もそれを知ってか、この曲が一番盛り上がっていたような気がします。

ちなみにこの『Hopelessness』というアルバム。プロデューサーは、スコットランド出身のDJ、ハドソン・モホーク(Hudson Mohawke)氏と、「ブライアン・イーノの後継者」とも言われる、ニューヨーク出身のワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)。エレクトロニカの若き気鋭と呼ばれる二人を配陣し、今まではどちらかと言うとシンフォニックな悲しくも優しい音楽を作っていたアントニーさんが、今回はポリティカルかつ攻撃的な作品に挑戦しています。

例えば上の『4 Degrees』は地球温暖化をテーマにしていて、『この世界が煮えたぎるのを見たいわ!/気温があとたった摂氏4度上がるだけなの!』という破壊的なリリック。またアルバム1曲目の『Drone Bomb Me』は、ドローン戦闘機の爆撃被害にあったアフガニスタンの少女をテーマにしているし、その名も『Obama』という楽曲では、オバマ政権に対する痛烈な批判を歌詞にしています。

トランスジェンダーとして生まれた自分の孤独や苦悩を乗り越え、泣いてるばかりでも諦めてるばかりでもない人生を歩き始めたアントニーさんの「強さ」と「怒り」を感じる傑作です。おそらくグラミー賞を含めた来年の賞レースでは、この作品が席巻することになるでしょう。

ビョークさんの話をしていたつもりが、いつの間にかアントニーさんの紹介になってしまいましたが、それもこれも、ボクにとってはビョークさんが投げつけてくれた「塊り」の中の出来事なのです。アノーニ、恐るべし。それ以上に恐るべし、ビョーク。

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